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日米同盟を考える: 航空自衛隊 次期主力戦闘機(F-X)候補 ③

2009-02-14 14:36:22 | 防衛・安全保障

◆F-22戦闘機とはどのような戦闘機か

 米国製F-22戦闘機。航空自衛隊の次期主力戦闘機候補として最有力でありながらも高い機密性ゆえ、輸出が許可されない機体である。しかし、F-22がどのような機体であるか、という点で理解されていない点や誤解されている点がある。本日はF-22がどのような戦闘機が簡単に触れてみたい。

Img_1943  アメリカではロッキードマーティン社の雇用維持の観点から、一旦は生産の終了が見込まれたF-22戦闘機の継続生産を行うとの見通しを発表した。また、同様の理由からボーイング社にはC-17輸送機の継続生産のための発注が行われている。特にF-22の生産延長を契機として、防衛省では、F-22の航空自衛隊次期戦闘機への導入を期した働きかけが行われているとのことだ。F-22は卓越したステルス性と超音速巡航能力、そして空中における高い機動性能を発揮し、現在、進空した戦闘機の中では最高性能を誇る、とされている。

Img_1927  F-22と一口に言うが、F-22は、量産された機体で、ブロック20、ブロック30、ブロック40、ブロック50とに現段階ではわかれている。現在すでに配備されているのがブロック20で、2008年から敵防空網制圧任務(SEAD)能力を付与し、側方監視レーダーを搭載、衛星通信機能を付与させたブロック30が導入されている。ブロック20もブロック30への能力向上が行われるが、これにはF-16一機分程、航空自衛隊のF-15近代化改修費用二機分程度の改修費用がかかるとのこと。2011年以降には、ブロック40の生産が開始される計画である。

Img_1932  ステルス機としてのF-22は、第一世代のF-117,攻撃機、第二世代のB-2爆撃機に続く第三世代のステルス機として位置付けられ、特にレーダー反射面が最大となる機首前方からのエンジン空気取入口の形状が重視されており、機首前方から飛び込んだレーダー波がエンジンブレードにて反射することが無いよう、ダクトの形状をS字型としている。搭載するレーダーはAN/APG-77といい、100~150マイル以内の目標を追尾・識別が可能であり、将来的には250マイル先までを捜索範囲とする計画だ。他方、これはレーダー波を出している以上、逆に探知される可能性があることを意味している。また、機体の形状から正面や側面に比して後方からはステルス性が制限されている可能性があるともいわれる。

Img_1936  AN/APG-77レーダーは、対ステルス機用にも対応の指向型捜索と従来型の航空優勢確保を目指す広空間捜索などの切り替えが可能となっている。指向型捜索の場合、捜索範囲が狭まる為に文字通り視野狭窄に陥る可能性が出てくるが、編隊間情報共有により編隊全体で捜索することで対応、F-22以外とも情報を共有できるため、早期警戒管制機の捜索を補完することも可能となる。このレーダーは従来の捜索と追尾のみならず、電子戦能力と電子情報収集能力を備えているため、F-22に対して電子攻撃が行われると即座に電子情報を収集し解析し、対抗手段をデータリンクにより共有する能力が備えられている。機体の電子戦システムはBAEシステムズ社製のものが搭載、レーダー受信警報装置とミサイル発射感知装備を複合化したデジタル式の装備である。

Img_1941  機内には、AMRAAMを最大六発、短距離AAMを二発搭載可能となっており、AMRAAMの最新型AIM-120Dの射程は180kmに達するとされる。また、短射程ミサイルであるAIM-9も最新型のAIM-9Xでは30km以上の射程を誇り、ステルス性を犠牲にし機外にミサイルを搭載した場合の搭載量はさらに増加する。GPS誘導爆弾や対レーダーミサイルなどの運用も可能となっており、固定装備として20㍉多銃身機銃M-61A2と機関砲弾480発を搭載している。また、すべての武装を使用した後でもステルス性とデータリンク能力を活かし、戦域に滞空、任務遂行を継続することが可能だ。

Img_1948  搭載されているエンジンは、プラット&ホイットニー社製F119-PW-100エンジン。このエンジンは、アフターバーナーでの運用が一分以内という非常に厳しい制約がある為、マッハ1.8の最高速力での飛行に制限が加わるものの、アフターバーナーを使用しなくとも超音速飛行を行うことがF119-PW-100エンジンには可能である。これがF-22の利点として提示される超音速巡航能力で、超音速巡航の状態は30分程度維持できるとのことである。ただし、超音速巡航を行う場合は燃料消費も増大するため、F-22は通常、亜音速で運用される。それでも、超音速にて移動できる距離はF-22の場合、700kmとF-15Cの1.8倍に達するという。ちなみにF-22は、フェリー航続距離の場合3200kmを移動することが可能だ。一般に、離陸したらどこまでも超音速巡航が可能だといわれる方もいるようだが、それは誤解である。

Img_2127  問題点はコストで、F-22の調達コストはF-15の三倍程度の費用を要するとのことである。加えて、整備性が第二世代や第一世代のステルス機よりも向上しているとはいえ、米軍の実績は2007年の時点で65%とのことだ。予備部品の供給などによっても向上には至らず、一個飛行隊の定数もF-15よりは縮小しているため、稼働作戦機の数に影響している。したがって、一定数の作戦機を稼働状態に置くためには、その分多数の機体を配備する必要が生じるのだが、これがコスト的に難しく、付け加えれば前述のようにブロック20からブロック30への近代化改修にも多くのコストを必要とする。

 総合的には極めて優れた航空機である。これだけのステルス性を付与させた機体を高い機動性とともに完成させ、レーダーの機能なども特筆できる航空機といえるが、自衛隊の対領空侵犯措置任務にあたる次期戦闘機候補とした場合、コスト面や稼働率では、慎重な事業評価を要する機体ともいえるのではないか。

HARUNA

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