◆今度こそ本当に空母建造に着手が実現か?
中国海軍の将官や関係者ら複数からの情報として、中国海軍は今年中に初の国産空母の建造に着手するとのことである。今度こそ、中国海軍は空母を建造することになるのかもしれない。
軽巡洋艦を改造した世界最初の空母フューリアスが就役したのが1917年、世界最初の新造空母鳳翔が就役したのが1922年。日本も未成のものを含め正規空母17隻、改造空母12隻というかなりの数の空母を建造し第二次大戦に投入、戦後最初の(国際的な基準としては航空母艦のカテゴリに含まれるという意味での)軽空母にあたる、ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦を間もなく就役させ、二番艦も建造中である。横須賀基地にも米空母ジョージ・ワシントンが前方展開しているのだが、中国海軍も2015年までに5~6万トン級の中型空母二隻の完成を目指しているとのこと。
5~6万トンというと、アメリカの空母の半分くらいの大きさだが、米海軍のワスプ級強襲揚陸艦よりもやや大きく、計画中のアメリカ級強襲揚陸艦よりも一割ほど大きい。近く旧ソ連の空母ワリャーグを修理し、練習空母として再就役させるとのこと。この航空母艦は、南海艦隊に配属される見通しで、海南島に専用の桟橋を建築中という。搭載機としてSu-33戦闘機約50機を購入するとのことで、この旨の情報は、昨年にも中国国防省の黄雪平報道官から発表されたことで注目を集めていた。この旨、世界の艦船通巻703号の海外艦艇ニュースに記載されていた。
米海軍などの空母建造をみていると、中国も建造するのか、という程度の印象ではある。しかし、考えてみると中国海軍の空母建造計画というのは、これまでに幾度も立ち上がり、そして消えている。すると、今度こそ建造できるものなのか、というのが当方の第一印象。朝日新聞の田岡俊次氏が出した「戦略の条件」にも、1993年5月に中国海軍は21世紀までに中型空母2隻を導入させるという発表を行っていた、として、加えてその導入計画を検証し、不可能であろうと田岡氏は記載している。実際、中型空母が建造されていないのはご承知の通り。ジェーン誌の日本特派員であった江畑謙介氏が著書「中国が空母を持つ日」に、中国が2050年までに空母機動部隊6個を保有したいという構想がある、との話を載せている、1994年に出版された本なので、随分長期展望を出したものだ、と驚いたが、今回こそ建造されるということだろうか。
意外かもしれないが、大型艦の数では日本の方が中国よりも多い。中国海軍は、北海艦隊・東海艦隊・南海艦隊に海軍を分けている。守備範囲としての海岸線の長さは、ほぼ、海上自衛隊の地方隊と同じくらい。近年は、大型水上戦闘艦の整備に力を入れているが、外洋での作戦を行う満載排水量4000トン以上の大型艦の数では、まだ実は海上自衛隊の方が多い。報道映像などで、中国海軍の艦船がロケット弾を一斉射撃する勇ましい映像が流れるが、考えてみれば一発必中の装備が無いからこそ数を撃っている訳で近代化へ過渡期の装備体系である。
日本本土への防衛を考えると、中国海軍の航空母艦というのは、脅威度は少ない。艦首にスキージャンプ台方式の跳躍台が設けられており、ここから加速をつけた艦載機が飛び出す方式を採用している空母で、いわゆる米海軍のような蒸気カタパルトを装備したものではない。蒸気カタパルトは、理論的には簡単なのだが、数十トンの航空機を瞬間に離陸可能な速度に加速させ、持続して航空機を射出する性能のものとなると、旧ソ連も正規空母を精力的に建造しているフランスも実用化には至らなかった。旧ソ連の空母は跳躍台方式で、フランス海軍は蒸気カタパルトを米国から輸入している。跳躍台方式は、設計は難しくないものの、航空機発進には不適なようで、この方式の空母となると、発艦に時間を要するので、脅威というよりは、政治的シンボルとしての意味合いの方が大きい。
Su-33であれば、F-2支援戦闘機と同じように対艦ミサイル四発を搭載することが可能である。ただし、Kh-31の場合、日本の護衛隊群を相手に使用した場合、イージス艦のSM-2艦対空ミサイル、場合によっては護衛艦に搭載される発展型シースパローESSMの射程内で発射する。しかも、データリンクで結ばれ、各艦にFCS-2など高度な射撃管制装置が搭載されている状況を背景とすれば、艦載機を24機、稼働率50%として12機による一波程度の攻撃(アルファストライク)には対応できるだろう。純軍事的には過大評価をすることは禁物だ。他方で、例えばインド洋や南太平洋、東アフリカ沖における中国海軍空母の政治的な運用は、影響が生じる。今後、日本が必要とするならば、これら地域に対する戦力投射を行うための検討も、頭の片隅に置いておく必要はあるかもしれない、もっとも、本当に建造出来て戦力化された場合の話ではあるが。
HARUNA
[本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる]