◆政府部内での調整すら難航
QDR2010が発表されましたね。そして硫黄島南方50kmの福徳岡ノ場で本日海底火山が噴火を始めたそうです。そんなことより普天間はまだかい?、そういう声が聞こえて来そうな今日この頃。
鳩山民主党連立政権は、普天間基地の移設先決定について、当初は2009年12月までの決定を、とアメリカから要望があった状況を粘りまして、何とか五月までに合意、という新しい期限を設定しました。しかし、最近は五月末までに日本側の意見をまとめたい、というように発言を訂正しています。現政権は、外交政策、景気対策、成長計画、果ては子供手当まで、その迷走ぶりからどんどん支持率を失っているという現状がありまして、果たしてこのまま進めば、五月末には支持率がどのくらい残っているのだろう、と素朴な疑問が湧いてこないでもありません。
ところで、五月までに日米合意、という言葉ならば、つまり五月までに問題は解決だ、という意味になったのですけれども、五月末までに意見をまとめたい、ということは連立与党内での意見集約に五月末までかかる、という意味ともなりますので、まとめました、この線でお願いします、と提示した案が、アメリカの提示しています条件と合致しなかった、ということもあり得るわけです。つまり、五月末までに日米合意をする、というのではなく、五月末までに日米合意の意見交換を行うための日本側の準備を行おう、ということになるのですよね。移設先決定は年明けになることも充分考えられるわけです。
そうした中で、普天間基地移設問題について、民主党連立政権は連立を組む社会民主党の要望から、グアム島への移設可能性を探るために新しく調査団を送る予定とのことです。グアム島へは、現在、沖縄県から海兵隊8000名の移転を目指した政府合意に基づき、移設計画が進展中です。自民党連立政権時代に、海兵隊の多数をグアムへ移転するとともに、日本の予算により移設費用と基地拡張費用を支出することでグアム島の基地機能を大幅に向上させ要塞化、その後に海兵隊のヘリコプター部隊は沖縄本島の住民からもっとも遠い場所、つまり海上に移設することで、騒音と接触を最小限に抑えよう、という構想にはかなりの利点と説得力があった、と今日では評価することができます。
さて、グアム島へは、北大路機関の過去に掲載しました記事にありますように、そもそも人口が18万と、非常に少ない実状を考えますと、現在の8000名という海兵隊受け入れを行うだけでも相当な無理をしているわけでして、グアム島の島の規模を考えると、これ以上は受け入れられない、ということがグアム島移設責任者の名前で生命が出されています。もちろん、グアム島の爆撃機などを嘉手納基地で受け入れる、というようなウルトラC級の代案でも提示するならば別なのですが、これはあまり現実的ではありませんね。グアム島は玉手箱やドラえもんの四次元ポケットではなくて嘉手納と同じく飛行場は空軍の拠点基地、新しく基地と滑走路を、という提案、新しく海兵隊員の宿舎を、という提案なのですから、これは難しいのでしょう。
沖縄本島には、海兵隊のヘリコプター部隊が展開しています。そして海兵隊の戦闘部隊も沖縄に駐留しているのですよね。海兵隊8000名がグアムする、とはいうのですけれども、司令部機能が中心に移るだけなので、戦闘部隊は沖縄に残ります。この事は、これも幾度か、北大路機関の記事として掲載したのですけれども、海兵隊は火力が陸軍の師団ほど充実していませんので、その分を輸送ヘリコプターによる機動力と、攻撃ヘリコプターによる空中からの打撃力によっておぎなっているのですから、たとえは悪いですが、駅の改札とホームを全然別の街に、消防署と消防車を離れた市町村に置くようなものです。つまり、ヘリコプターを受け入れれば、半ば自動的に海兵隊地上戦闘部隊も移転してくることになってしまう訳なのです。そして、地上戦闘部隊は陸上での演習を行う必要がありますので、沖縄北部演習上のような広大な演習場が必要になるわけです。受け入れ候補地は、ヘリコプターの運用が可能な飛行場とその近傍に地上戦闘部隊が駐屯する駐屯地、そして、沖縄の北部演習場からその候補地が遠い場合は、空中機動や実弾射撃訓練が可能な演習場が近くにあることが移設候補地の条件となります。
民主党が今回、グアムへの調査団派遣を行う意図はよくわかりません。可能性として合理的なのは、グアム移転は不可能、という結論を出すために派遣する、つまり社民党への配慮として、グアムに一応は調査に向かい、その上でやはり不可能であった、ということを説得することでしょうか。実は、社民党は先日、グアムへの社民党としての調査団を派遣する計画を立て、その旨アメリカ政府に打診したのですが、政府としての調査団は受け入れることはできるのだけれども、社民党としての調査団は受け入れることはできない、という回答をもらっています。つまり、グアムを調査することができなかった訳です。
そもそも、グアムはアメリカ海兵隊が反対しています。受け入れ能力以前に、ヘリコプターの母艦である佐世保の強襲揚陸艦から距離がありすぎますし、海兵隊が対処しなければならない、台湾海峡や朝鮮半島での緊張に備えるには、グアムは遠すぎるという理由からです。これは戦争になるかもしれないね、という状況に陥ったとき、素早くアメリカが航空母艦や海兵隊を展開させ、介入を行う準備を整えれば、このまま戦争を始めると大事になる、ということで鎮静化することがあります。例えば朝鮮半島核危機、台湾総選挙にともなうミサイル実験など、アメリカは空母を近海に投入するとともに、海兵隊を待機体制に移行させたことで危機を回避させることに成功しました。海兵隊は、アメリカ国民を中心に外国人脱出の目的で紛争地に投入されますので、待機体制にはいるのですが、これはアメリカと軍事力で対峙することにもなるので、世界のある地域で戦争を起こそうか為政者が考える際には、戦争を抑制する手段として海兵隊の位置づけはかなり大きいということができるわけです。
そして、海兵隊はアメリカ四軍の中で唯一大統領令だけで出動することができる部隊、という特質があります。海兵隊は陸軍でも海軍でもなく、アメリカ合衆国海兵隊、と呼ばれているのですが、これはアメリカ独立戦争の際に陸軍と海軍がイギリスからアメリカ大陸が独立するための大陸軍として編成されて、独立戦争が独立を勝ち取ったぞ!、というかたちで終了した後に、解体されているという歴史があります。しかし、海兵隊と税関の取締隊、つまり今の沿岸警備隊だけは、アメリカが貿易立国として躍進してゆく上で必要、という位置づけにて残されました。陸軍や海よりも歴史が長いのですが、こうした理由から、陸軍や海軍が編成されて、第二次大戦後に空軍が新設されたのち、陸海空軍の出動には議会の承諾が必要なのですが、海兵隊は大統領令で出動することができます、議会を通す必要がないのですよね。そこで、海兵隊は最初に対処する即応部隊、という位置づけにあり、法律的には陸軍の精鋭、空挺部隊よりも早く出動することができるわけです。
この文字通り有事即応の海兵隊なのですが、沖縄から海兵隊を出してしまう、という案には韓国政府も反発しています。韓国は、イージス艦を中心に海軍初の機動展開部隊を編成する計画を先頃発表、軍事力の近代化に熱心ですが、分断国家である韓国は常に隣国である北朝鮮の動静を注目しています。北朝鮮は核実験を実施して、核兵器で韓国に圧力を加える、という新しい選択肢を政策決定に含めることができましたので、韓国としては、いざというときに、アメリカの軍事的な支援を必要としている訳です。そして、韓国には多くのアメリカ人が修学や職業として滞在、居住していますので、有事の際にはすぐに海兵隊が展開してくるわけです。そして、軍事境界線から近い韓国一の人口密集地ソウルには多くのアメリカ人がいますので、有事の際にはアメリカの海兵隊をあてにしてもいいわけです。その海兵隊を日本の事情からグアムへ、韓国から非常に距離のあるグアムに移転するというのならば、せめて利害関係国である韓国の意見も聞くべきではないのか、というのが韓国側の主張です。
在沖海兵隊とグアムの関係というのは、このように別のベクトルまで波及するに至っているわけなのですけれども、果たして民主党内に、どの程度、グアムは難しい、という認識が浸透しているかは不明です。こうしたなかで、民主党がどういう意志でもって、グアムへ調査団を送ろうとしているのかについて、興味は尽きません。自民党連立政権時代、普天間基地の位置づけやその重要性、そして海兵隊が米軍においてどういう位置づけにあるかという認識や、極東地域における沖縄県駐留米軍の抑止力。そして航空機や実弾射撃による騒音問題や、米軍兵士、米軍兵士家族と沖縄県民とのトラブルをいかに解決するかについて、文字通り東奔西走し、板挟みのなかで妥協できるところを持つけ出したのが自民党です。その自民党が十五年をかけて調整したことを、民主党新政権は十五年経ってもできない計画、と謝った解釈を行い、我々であれば半年くらいで解決できるだろう、という見通しのもとで、今日の状況に陥っているわけです。民主党の調整力が問われる命題なのですが、支持率が徐々に下降していることが、一つの気がかりといえるでしょう。
HARUNA
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