北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ハイチPKO 輸送艦は訓練を優先し民間チャーター船を利用する政府方針

2010-02-07 23:52:23 | 国際・政治

◆輸送艦の増強を真剣に検討するべき

 突如としてInternet Explorerがシャットダウンしてしまい、せっかく書いた記事ごと消失してしまう、これが困りますね。さて、そうした理由から、やや気は立っていますが本日の記事です。

Img_7288_2  ハイチPKOの第一陣として羽田空港、成田空港から中央即応連隊連隊長を中心に精鋭が先遣隊として出発した話は昨日掲載しましたが、本隊は北部方面隊を中心に編成、その中には施設科車両を中心に150両の車両が含まれ、三月中にハイチ安定化任務の復興支援分野への参加へ展開するという計画です。鳩山首相は、PKOへの参加決定から二週間での派遣は画期的なのだ!、と自賛されていますが、災害そのものへの復旧はそろそろ完了して、復興にとりかかる時期、遅かったのでは、と思うのは私だけでしょうか。なにぶん、復旧は自己完結能力に秀でた軍事機構の出番ですが、復旧がひと段落して、復興に入る際には現地の雇用というものを考えねばなりません。治安上問題があって民間の建築会社が活動できないイラクやアフガニスタンのような状況ならばともかく、ハイチでは民間を資金的に支援して雇用創出を行った方が、施設科部隊によるがれきの除去よりはいいのではないか、と思いましたが皆さんはどうでしょうか。

Img_7506  しかし、自衛隊という同胞が遠い任地にて勇躍出動したことは同じ日本人として応援したいことには変わりありません。ただ、この中で一つ、気になった記事がありますので、東京新聞から引用します。ハイチ支援より交流行事 海自輸送艦『友愛ボート』理念先行 :2010年2月6日 朝刊・・・ 鳩山由紀夫首相が提唱した災害救援や医療活動に自衛艦を活用する「友愛ボート」は、当面、ハイチ大地震に使われないことになった。五月に行われる米国主催の親善行事「パシフィック・パートナーシップ2010」に参加するためだ。同行事に参加する予定の米病院船はハイチで活動しており、理念と行動のギャップが浮き彫りになった。 親善行事は、医療支援や文化交流を目的に五月から二カ月間、東南アジアで行われ、日本からは海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と医療支援チームが参加する。

Img_7456 一方、ハイチ大地震に派遣される自衛隊の国連平和維持活動(PKO)部隊は、本格的な復旧にあたる第二陣が重機やトラックの輸送に艦船を利用する計画だ。海自輸送艦を二隻使えば輸送でき、現在、「おおすみ」「しもきた」の二隻が使用可能となっている。 だが、「おおすみ」をハイチに派遣した場合、親善行事の開始に間に合わない可能性があり、結局、ハイチPKOではチャーターした大型の民間輸送船一隻だけを活用することにした。防衛省の内部では「輸送艦はコンテナ輸送には不向き」との指摘もある。 米国は親善行事に参加する予定の病院船「マーシー」をハイチ救援に活用しており、五月の本番に間に合うか不明。地震発生直後、自衛艦を「友愛ボート」第一号として活用する方法もあったが、実現していない。 海自は一九九九年のトルコ北西部大地震の際、輸送艦など三隻で阪神大震災で使われた仮設住宅約五百戸を被災地に運んだ。 二〇〇一年のインド大地震では、海外の式典に参加する護衛艦一隻が救援物資を積み込んで出航。後から政府が国際緊急援助隊の派遣を決めたことがある。 http://<wbr></wbr>www.tok<wbr></wbr>yo-np.c<wbr></wbr>o.jp/ar<wbr></wbr>ticle/n<wbr></wbr>ational<wbr></wbr>/news/C<wbr></wbr>K201002<wbr></wbr>0602000<wbr></wbr>057.htm<wbr></wbr>l

Img_7512  引用は、以上です。つまり、150両の車両を輸送するべき海上自衛隊の輸送艦が五月まで訓練で出れないのだ、と東京新聞が報じていることになりますが、これが本当ならばかなり重大な問題です。さて、海上自衛隊は外国での武力攻撃を積極的に行わないという国是から、陸上部隊を輸送する輸送艦の保有や建造は、優先度について護衛艦や哨戒機とくらべ、かなり低めに整備されてきた経緯があります。そのなかで、1990年代から新しい任務として提示された国際平和維持活動や国際貢献任務に向けて建造されたのが、3隻の、おおすみ型輸送艦です。満載排水量は14000㌧、各国の揚陸艦と比べれば船体内部に上陸用舟艇用のドックを備えたドック型揚陸艦としては平均的な大きさではありますが、この種の揚陸艦を保有する国そのものが少ないので、おおすみ型3隻を運用する海上自衛隊は相応に高い能力を持っているとは言えます。上部甲板はヘリコプターの運用に適した全通型で、艦内には手術室を備えていて、災害へも充実した装備として海から有事に備えています。

Img_7432  ただし、この、おおすみ型輸送艦は3隻しかなく、海上自衛隊の外洋に出ることが可能な大型輸送艦は、3隻だけ、というのが大きな問題です。フネは、定期的に造船所において長期間修理をする必要がありますし、訓練も行わなければなりませんから、3隻あっても稼働できるのは長期的には1隻となります。そして、ハイチへの任務に輸送艦を派遣した場合、鳩山首相が構想している、輸送艦を人道支援に用いるための国際親善訓練に間に合わないかもしれないので、派遣はしない方針、というかたちになってしまったのですよね。普通に考えれば、訓練よりも実任務が優先されるのですが、なるほど、これまでの自民党政治とは違う政治を目指す現政権では実任務よりも訓練を優先して、ということなのでしょうか。親善行事に補給艦が間に合わないのならば、医療設備の充実した潜水艦救難母艦や補給艦、掃海母艦を派遣すればよいのでして、コンテナ輸送に不向きだから輸送艦は派遣しない、という指摘もちょっと理解できません、今回は車両輸送が目的なのですからね。

Img_6938  訓練に一隻回せば、予備の輸送艦が無い、と言う状況も考えてみれば憂慮すべき状況ですから、鳩山政権は輸送艦の増強を23年度予算に盛り込んでみては、ともいえるでしょう。友愛ボートとして輸送艦を人道支援に充てるということの重要性はある程度納得できますし、そのための訓練が必要なことも納得できます。しかし、そのために今迫っている実任務に輸送艦を充てることができずに、民間のチャーター船を充当するくらいでしたら、輸送艦の増強と、もしくは友愛ボートに、揚陸艦としての設計を備えた輸送艦を充てなければならない状況は別として、民間の客船かカーフェリーをチャーターして投入したほうが、いいのではないか、と少し考えてしまいます。そういう意味からも、いろいろな意味で違和感を感じましたので本日の記事としてみました。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする