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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

米軍アフガン・イラク帰還兵の自殺防止へ ギリシャ悲劇の朗読会を実施

2010-02-04 22:15:13 | 国際・政治

◆今年だけで50の基地・駐屯地にて実施

 PBSによれば、昨今米軍のイラクやアフガニスタンへ派遣された兵士の帰還兵において、自殺が大きな問題となっているという。

Img_8732  兵士の自殺という問題は、第一に自殺する年齢層と性別が軍隊の戦闘要員に求められる年齢層がかなり合致しているということが挙げられる一方で、長期化した危険な掃討作戦や治安作戦への参加に伴うPTSDなども、自殺増加の要因の一端として挙げられている。米軍では心理学者や精神科医師との協力やカウンセリング、社会復帰策の強化などを行っているが、そうした対策を、潜り抜けて自殺車の増加という問題は立ちはだかっている。

Img_7888  そこで国防総省は新しい取り組みとして、ギリシャ叙事詩の朗読会を民間NGOなどと協力して実施している。PBSが報じたのは、役者によるギリシャ叙事詩の朗読会で、ソポクレスの”アイアス”を朗読している会場を紹介していた。会場は、海兵隊員や陸軍兵士が招かれ、オペラのようなものではなく、朗読を役者が行い、朗読会が終了した後に、意見交換会を行う、というものであった。

Img_7374  “アイアス”は、トロイ戦争を舞台としたギリシャ悲劇で、闘将として知られたアキレス死後の世界が舞台。トロイ戦争はギリシャ神話上に記録されている戦争で、神々が生きる時代、増えすぎた人口が招いた秩序の混乱に起因する紀元前1200年の大戦を示す。この戦争において、英雄として讃えられた一人、アイアス将軍は、自らが激戦の中で正しく評価されていないと感じるようになり、次第にその心に闇を育むようになる。そして、アキレス将軍の追悼のために行われた競技会において、戦技の競技は僅差からオデッセウス将軍を栄冠へと導く。この瞬間、アイアス将軍は大いに憤慨し、友軍の将軍にたいする激しい殺意へとつながってゆく。発狂したアイアス将軍は手近な羊を殺戮し、我に返った彼は余りもの無情感から最後に自殺してしまう、という内容だ。

Img_2408  自殺防止に自殺をテーマとした叙事詩の朗読会を行うのは逆効果なのではないか、という議論は国防総省部内でも交わされたようだが、トロイ戦争の描写とイラク戦争やアフガニスタン戦争の派遣兵が遭遇した情景には、主観的に重なる部分が多かった、ということで、兵士たちに自殺に至るまでの状況や、アイアス将軍の心情に関する意見交換において、活発な意見が交わされるということで、ある程度の効果も数字として挙げられているとのこと。こうした試みは、国防総省により予算が認められ、今年だけで50の基地・駐屯地にて実施されるとのことで、米軍の自殺防止への取り組みへの深い対処体制が見えてくるといえるだろう。

HARUNA

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コメント (4)
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