◆アメリカ国務省・国防総省不在のアメリカ移転論議
普天間飛行場移設先に、グアムに移転することが無理ならば、隣のサイパン島やテニアン島に移転すればいいのではないか、こうした超論理が出てしまいました。もちろん、北朝鮮や中国本土、月面に移転する案よりはまだ現実的なのかもしれませんが、非現実的に限りなく近い案、ということができるでしょう。
普天間:米自治領テニアン市長 受け入れに前向き姿勢表明 :米自治領・北マリアナ諸島のテニアン島 米自治領・北マリアナ諸島テニアンのデラクルス市長は10日、共同通信の電話取材に対し、在日米軍再編に伴いテニアンに米軍部隊を受け入れたいとの意向を示した。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)についても「移設先になりうる」とし、受け入れに前向きな姿勢を表明した。 日本政府の沖縄基地問題検討委員会は10日、在沖縄海兵隊が移転を予定している米領グアムを視察。一部議員はテニアンに立ち寄り、北マリアナ諸島のフィティアル知事とも会合。米軍受け入れに積極的なテニアンが、普天間の移設先候補になるか、検討するとみられる。 テニアンは観光地サイパンの南5キロにある島で、現行の再編計画では海兵隊の訓練地となる。デラクルス市長は取材に「島の土地を米軍に貸しているが、有効利用されていない。受け入れ能力は十分にある」と説明。軍部隊や施設がテニアンに移転すれば、経済効果を期待できると語った。 米軍側にも受け入れの意向を既に伝えたという。テニアンは太平洋戦争で激戦地となり、米軍による占領後は広島と長崎に原爆を投下した爆撃機が出撃した。(共同) http://<wbr></wbr>mainich<wbr></wbr>i.jp/se<wbr></wbr>lect/wo<wbr></wbr>rld/new<wbr></wbr>s/20100<wbr></wbr>210k000<wbr></wbr>0e01008<wbr></wbr>1000c.h<wbr></wbr>tml
まず、この移転案が誰により出されたのか、ということは興味深いことなのですが、共同通信が一方的に打診しているだけなのか、政府部内にもこうした意見があるのか、という問題があります。さて、グアムに移転できない大きな二つの理由、海兵隊の陸上戦闘部隊や揚陸艦の母港である長崎県の佐世保基地から距離がありすぎる、という”距離”の一点、そして、グアム島自体が人口18万という小さな島であるから、これ以上海兵隊を物理的に収容することはできない、という”容積”の一点。この二つの問題を解決できないことからグアム島への移転は非現実的だ、という結論に至ったということです。
少なくとも新しい移転案は、”容積”の面では、受け入れることができる余地はあるのですが、”距離”の面では移転となる当事者、アメリカ合衆国海兵隊として、受け入れる余地が無いわけです。沖縄の海兵隊は、台湾危機という状況に際して台湾近海に揚陸艦とともに展開して危機が台湾有事へ発展することを未然に防ぐ、という任務があります。朝鮮半島有事でも危機が予見できる状況ならば日本海や黄海に展開して危機が有事になることを防ぐ任務がありますし、東南アジア地域で国境線を武力で引き直そうという危機に対処する目的があります。この為の譲れない条件が”距離”であるわけです。
しかし、今回、見ていて笑えないのは、相手の自治体の合意を国家間の合意とはき違えている点でしょうか。これも、共同通信が一方的に取材しただけなのですから、大した意義は無いのだろうということもできるのですけれども、自治領にたいして受け入れ能力があるのか、と聞いた上で受け入れ能力があり、経済的な恩恵を期待したい、という答えを導き出して、これだ!、と意気込むのには少し無理があるでしょう。つまり、外交を担うアメリカ国務省や実際に移転を受ける合衆国海兵隊をいっさい交えずに出した結論なのですよね。外交というものは、国家間の合意と履行で行われる国際関係なのですから、国家と他国の自治体との間での合意は認められるものではないのです。たとえば90年代にロシア沿海州の議決で日本との北方領土問題を前進させよう!、という議決があったのですが、これは自治体の決議であり、モスクワの議会決議では無かったので、当然外交関係に反映はされることがありませんでした、これと同じことです。
さて、もう一つ、これは余談になるのですが、合衆国海兵隊が国際情勢の激変、例えば中国が民主化しアメリカや日本と安全保障条約を締結したり、北朝鮮が韓国と連邦国家の樹立を実現させて南北統一を果たし核兵器の放棄を行った、そしてサイパンとテニアンに海兵隊が移転することが可能になった、というあり得ない状況を想定します。恐らく、今回の移転案を提示した方々は、日本側が費用の少なくない部分を負担するという大前提を忘れているように思えるわけです、何故ならば、テニアンには航空基地建設の土地はあっても、航空基地を建設するインフラがありませんし、佐世保の揚陸艦母港機能と艦船整備機能を受け入れる余地はあっても、全く新しい基地を零から創生する必要があるわけです。厚木航空基地から岩国航空基地へ空母航空団移転のための埋め立て工事ではかなりの費用を出すことになりましたが、航空基地、海兵隊駐屯地、軍港、演習場、これだけのものを南の島に一つ丸ごと、資材を運び、建設しなくてはならないわけです。子供手満額支給当ほど大きな費用負担とはならないでしょうが、それでも莫大な費用が必要になるわけです。そして、普天間の代替基地建設に関わる諸負担は、日本政府が担うという日米合意がありますので、果たして我が国の台所事情は、そこまで潤沢だっただろうか、と発案者は一考する必要もあるのではないでしょうか。テニアンの一案は、一種の思いつきなのでしょうが、現実的な合意を求められる期限は五月です。
HARUNA
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