物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

金属疲労と磁気ヒステリシス

2011-07-05 12:02:08 | 物理学

Je suis fatigu'e. (ジュ スィ ファティゲ)というと私は疲れた(正確には疲れている)というフランス語だが、この中にはfatigu'eという語が入っている。

fatigu'eは英語のfatigue疲労と同じ語源の語である。英語では多分、I am tired. といってfatigueはつかわない。英語のfatigueは名詞であって、形容詞ではない。

ところで、この英語のfatigueは専門用語としても使われている。金属疲労とかいう風に使われている。疲れるのは人間だけではなく、物でも疲れるというところがおもしろい。

これは金属疲労の一例だが、私の家の金属製のコップの柄がちょうどコップをかけるためにも使われていた。ところがあるとき、その柄が折れてコップが落ちてしまった。

それで妻は仕方なく新しい金属製のコップを買ってくるしかなかった。コップとしての機能は失われた訳ではなかったのだが、取っ手を流しの前の棚に引っ掛けて置けなくなったからである。これは金属疲労のいい例であろう。

昔、コメットという名の英国のジェット機ができて、旅客機として使われていたが、日本のどこかの島の山麓に墜落するという事故があった。この原因の調査が行われて、金属疲労のせいであることがわかった。これは低温の高空と地上の温度差による機体の金属疲労が原因ということだったと思う。

いまでは金属だけではなく、いろいろな材料の特性が詳しく調べられているから、最新のボーイング787の機体の材料についてもその特性を詳しく調べられていることだろう。だが、1950年ごろには材料の研究はいまほど十分には進んでいなかった。

人間にはヒステリーという精神的な病気があるが、これはそれまでにその人が受けた精神的な負担が積み重なって、耐えられなくなり精神的に爆発するのが原因であろう。

ところで物理の方では磁性体には「磁気ヒステリシス」という現象があり、一度磁化するとその磁性体にかけられた外部磁場を元に戻しても磁性体の方の磁化は元にはもどらない。これを普通には磁性体の磁気ヒステリシスという。

磁気ヒステリシスは磁気履歴と日本語では訳されてもいる。

ヒステリシスはhysterisisであり、ちょっと英語を知っている人なら、歴史を意味する、historyと縁のある語ではないかと気がつくことだろう。ヒステリーは辞書を引くと英語でhysteriaとある。

いずれにしても、こういう物理の専門用語とヒステリー(もともとは医学の専門用語?)という日常語とが地続きである。磁性体の磁化の履歴は人間の精神の履歴と類似であることでそのような用語がつくられたのであろうか。

こういう指摘をH大学で教えられた故S教授が講義でされたを覚えている。それは彼がそういう風に学術用語も日常使う言葉の延長として捉えていたからであろう。

ちなみに個人の履歴書などを正式にはcurriculum vitaeなどとラテン語由来と思われる語を使うこともあるが、単にpersonal history と普通の語を使うこともある。