ことわざに「金の貸借は友情を壊す」というらしい。
それで思い出したのだが、羽仁五郎がどこかに書いていた。彼は友人の哲学者三木清にかなりの額のお金を用立てて欲しいと頼まれ、五郎の父に用立ててもらって、貸したらしい。
だが、この父が優れた考えの方だったらしく、お金を用立てるときにそれを「その友だちにやるつもりでないなら貸すな」と言ったらしい。これはことわざにあるようなことが起こるかもしれないとの心配をもったからであろう。
その後、三木清は当時は非合法で潜伏していた、タカクラテルか誰かを自宅にかくまった罪で捕まり、拘置所にいる間にひどい疥癬にかかり、急死してしまう。
だが、それ以前にも羽仁五郎は三木清に一度も金を返して欲しいと請求などしたことがないと言っている。五郎は友情はお金に優ると考えていたからであろう。
羽仁五郎の父、森氏は群馬県の桐生で絹織物工場かなにかをもっている、いまで言うなら企業家であるから、お金を貸してもどうということはなかったのかもしれないが、それでも見上げた識見である。
五郎が羽仁説子と結婚するときに、五郎の父は説子に「五郎は黒猫を白猫といいくるめる(あるいはその反対か)」ようなところがあるが、それでもいいかと正したという。
自由学園がどのような学校か私はよく知っている訳ではないが、そこを卒業してもいわゆる特権が付与されるというような学校ではないらしいところが興味深い。