岩波書店のPR誌「図書」に連載の佐伯泰英さんの「惜櫟荘だより」18に漢詩の話が出ていた。
李群玉の七言絶句である。
白鶴高飛不逐群 嵆康琴酒鮑昭文
此身未有棲帰処 天下人間一片雲
(漢字を現在の日本で普通に使われているものに置き換えてある:physicomath)
佐伯さんは漢文には詳しくないので前田伸人氏に尋ねたのだという。
前田氏の読み下し文だと
白鶴は高く飛ぶも群れを逐ず 嵆康は琴酒し、鮑昭は文をす
この身まだ棲みて帰する処をもたず 天下人間一片の雲
と読むという。解釈は
白鶴は高く飛ぶが、群れを追わず一羽で飛ぶ
あの嵆康は琴を弾いて酒を嗜み、鮑昭は文を綴る
我が身は安住すべき地をまだ持たない
天の下にある人の住む社会にあっては、我は漂う一片の雲のようなものだ
だという。注釈があったと佐伯さんは書いているがそれは省略しよう。詳しいことを知りたい方はこの「図書」10月号を読んでほしい。
話はこの一連の文句が好きだった岩波茂雄に敬意を表して書にしたいと思った、佐伯さんのいろいろな行動を書いているのだが、それはここではどうでもよい。
白鶴高飛不逐群
が好きだったという岩波茂雄という人のことを知りたくなった。
佐伯さんはインターネットで調べてみると私よりも2,3歳年下のようであり、(テレビの時代劇のドラマは別として)彼の小説は読んだことがないが、なかなか好ましい人である。
(2011.10.8付記) 惜櫟荘は岩波書店の社主、岩波茂雄の熱海の別荘であった。ここが最近売りに出されて、そのごく近くに仕事場を構えていた時代小説作家の佐伯泰英さんが購入することになった。
その際に惜櫟荘を建て替えることになった。そのいきさつを佐伯さんのスペイン滞在中のエピソードを交えながら、書いているのがこの「惜櫟荘だより」である。
なぜこの名前がついたかと言えば、一本の櫟の木がこの邸内に昔からあり、その木を切ることを岩波茂雄が惜しんだことから、この惜櫟荘の名があると昔何かで読んだ。
(2012.8.13付記) 「惜櫟荘だより」の書評が昨日の朝日新聞に載った。ということで何かをつけ加えたいところである。
逢坂剛さんの書評のなかで佐伯さんのスペイン滞在時代の思い出が、通奏低音のように書かれているとあった。確かに私自身は惜櫟荘(せきれいそうと読むらしい)の再建の物語もいいが、この回想部分がとてもいいと感じていた。
ところで、この通奏低音という語はNHKの阪本龍一「音楽のスコラ」でいつだったか阪本龍一が説明をしていたが、音楽のことをあまり知らないので、よくわからなかった。
それでこの機会と思って辞書をひいてみたが、新明解国語辞典にはこの語は採用されていなかった。それで仕方なく、広辞苑を引いてみたら、載っていた。音楽の基盤となるような低音部の音らしい。この上に普通のメロディーが書かれているとか。
ピアノで言えば、左手で弾く部分になるのだろうか。こちらは和音から成り立っているのが普通である。