久保亮五の『統計力学』というと、多分物理学を学んだ人は彼の『統計力学』(共立出版)を思い出すだろう。だが、ここではその有名な著書のことではない。
金曜日に古書でダイアモンド社の「新物理学講座」というシリーズ本を購入した。その中の1冊にこの表題の書があった。この書は100ページそこそこの小冊子なので、統計力学の考え方を中心に書いたとあとがきで書いている。
これの3章に気体の拡散について書いてあるが、いままで私がこういうことをなぜ統計力学の書で書かれてないのだろうと思っていたようなことが書いてある。まだ、十分に了解ができてはいないところもあるが、いままでの理解の隙間を埋めてくれるような気がしている。
これに近い書き方がされていることを私が知っているのは、和田純夫さんの『熱・統計力学のききどころ』(岩波書店)の第1章のはじめのところである。
それにチラッと見たことがあるのは横浜市立大学だったかに居られた都筑さんの著書に私の知りたいことが書いてあったように思う。その書の名は失念したが、森北出版から出された書であったと思う。
名著として有名な朝永振一郎の『物理学とはなんだろうか』(岩波新書)の中の熱力学と統計力学の項にもあまりヴィヴィッドには書かれていないことなので、少し欲求不満を起こしそうだった。とはいうものの、「物理学とはなんだろうか」が名著であることは間違いがないが。
M大学の薬学部でのリメディアル教育の数年前まで私が担当していた、物理講義でも熱力学については和田さんの本の一部を敷衍して講義をしていたが、あまり私の意図は学生には伝わらなかった。というのはたぶん、私とは熱力学とか統計力学とかでの問題意識が違ったからであろう。
私は「なぜ熱は高温から低温に流れるのか」を熱力学のテーマとして取り上げようとしたのだが、これは学生にとっては当然の経験的な事実であるから、それについて説明を必要とするという考え方はなかったに違いない。
もちろん、よく知られているように熱力学の範囲では、「系に何も仕事をしないと、熱は高温から低温に流れる」というのは熱力学の第2法則そのものであってその熱力学の範囲では説明をするできることではない。
しかし、熱力学のそういう側面を正面から統計力学の専門家は取り上げないのかと思っていたが、さすがに久保先生はそのことをわかりやすく説明する必要を感じておられたことがわかった。
私と同じ問題意識を物理を教えておられる方々が持っているかどうかはわからないが、高校等で熱力学や統計力学を真剣に教えようと思っておられる方には表題の書は役に立つに違いない。図書館等で見てみられることをお勧めしたい。