先週の火曜日に京都産業大学の名誉教授のSさんの講演が愛媛大学であり、彼の新しい構想の理論を聞いた。その中味の正否はすぐにはなんともいえないが、ちょっとした壮大な構想の理論であった。
その話のいとぐちとして話をされたx^{2}+y^{2}+z^{2}の因数分解からPauliの行列がごく自然に導入されることが印象的だった。
これはSさんの話の単にほんのいとぐちの話題にすぎなかったのだが、私自身はどういう風にPauliのスピン行列を導入するかにいままで関心をもったことはなかったので、新鮮な感じがした。これについてはいつか因数分解というテーマで数学エッセイを書いてみたいと思う。
このx^[2}+y^{2}+z^{2}の因数分解ほど高尚なことではないが、私の子どもが大学の理工系学科の卒業生であるのにx^{3}-1の因数分解の公式を忘れてしまっていたという話を昨日聞いた。それで、今朝起きてから、もしこの公式を忘れてしまったら、どう対応したらいいかという数学エッセイの草稿を書いた。
すぐに思いつくx^{3}-1の因数分解を求める方法は因数定理を使うことであろう。
f(x)=x^{3}-1とするときx=1をf(x)に代入するとf(1)=0であるので、x-1という因数があることはすぐにわかる。したがって、x^{3}-1をx-1で代数的に割る演算を行えば、x^{3}-1=(x-1)(x^{2}+x+1)と因数分解できることはすぐにわかる。
割る算を直接しなくても、x^{3}-1をx-1で割ればその商は2次式であるから、その2次式を仮定して未定係数法で決めてもよい。そのような内容を数学エッセイの草稿に書いた。
しかし、私の子どもはこの因数定理を忘れていたのであろう。おいおい、高校の数学も身についていなかったのか。よく大学の理工系学部に合格したものだったな。
(2012.3.21付記)
Pauli行列 \sigma は物理を学んだ人は大抵知っている2行2列の行列である。京産大のSさんの話のPauli行列の話は結局
x^{2}+y^{2}+z^[2}=(x \sigma_{x}+y \sigma_{y}+z \sigma_{z])^{2}
となるような \sigma_{x}, \sigma_{y}, \sigma_{z} を求めることであり、
\sigma_{x}^{2}=1, etcとか \sigma_{x}\sigma\{y}+\sigma\{y}+\sigma_{x}=0
であるような \sigma行列を求めることであり、よく知られたPauli行列は確かにこのような関係を満たしている。かつ
\sigma_{x}\sigma\{y}-\sigma\{y}-\sigma_{x}=2i \sigma_{z}
のような交換関係も成り立つ。
このような代数をClifford代数という。いつだったかDirac方程式に出てくる、\gamma _{\mu}等の満たす代数がClifford代数の例であると理化学辞典を調べて書いたが、Pauliの行列もCliford代数の例であることを知った。あのときに \gamma 行列以外にClifford代数の例を知りたいと書いたが、その解答はPauli行列であった。
どうもClifford代数と聞くと難しいという印象をもつが、
x^{2}+y^{2}+z^[2}=(x \sigma_{x}+y \sigma_{y}+z \sigma_{z])^{2}
を満たすような代数だと知れば、それほど恐ろしくはなくなる。どうしてこのような数学の教え方があまりされないのであろうか。それとも私が知らないだけなのか。