昨日、県民文化会館(ひめぎんホール)で前進座の公演があった。その中の一つの演目が「水沢の一夜」であった。
幕末の蘭学者で医師の高野長英が獄に入っていたが、火事に乗じて放免されたときに数日中にまた獄にはもどらず、逃亡生活を続けるが、母親の美也に一目会いたくて出身地の水沢を訪れるという筋の新劇である。
鶴見俊輔さんの『高野長英』によれば、母親の美也は当時水沢には住んでおらず、母親の弟の住んでいた前沢に住んでいたというから、水沢を長英が訪れたというのはこの演劇の台本を書いた脚本家のフィクションであろう。
それに長英には息子はいたが、娘がいたようには思えないので、さらにフィクションが重なっているように思える。しかし、長英役の主演の嵐芳三郎さんがおわり頃に語る台詞に「宇和島藩にはシーボルト先生の相弟子の敬作がいる」と語るときには、なんだか伊予の人に誇らしげに語りかけるような感じだった。
そのときの気持ちを本人に聞く機会があるわけではないので本当のところはわからないが、多分主演の芳三郎さんはこの台詞を語るときには、多分に愛媛の公演では観衆に親しく語るという感じを強くもっていたことだろう。
愛媛県では昔の卯之町、今の行政区分では西予市の出身の方とかその近くの宇和島の出身の方とか、はたまた愛媛県人は二宮敬作のことを知らない方はおられないだろう。
昔、司馬遼太郎の「花神」というNHKの大河ドラマがあったが、このドラマではシーボルトの娘のイネを育てたのはこの敬作であったと思う。そして、その当時宇和島藩に召抱えられていた、村田蔵六(大村益次郎)の恋人役で、浅丘ルリ子さんがイネを演じていたと思う。また村田を演じたのは現在、前進座の会長である、中村梅之助であった。
鶴見さんの高野長英の評伝を読む機会をこの公演のお陰で持てた。こういう機会がないと私などは高野長英の伝記など読み機会がなかったろう。