物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

体系的な書物を著した人たち4

2018-08-21 12:34:12 | 物理学
ここでは秀才だとか偉大な業績を挙げた人とかのその人の学者としての業績とかを度外視してあげている。

今回は村上雅人さんを取り上げる。この人は東京大学の金属工学科の出身であるが、高校時代をアメリカで過ごした人なのかちょっと変わった経歴の人だとの印象がある。

今調べてみると、はじめは「なるほど虚数」(海鳴社)を出して、注目を集めたと思うが、その後、この「なるほど」シリーズのテクストを私の知り限りでは15冊以上出している。

はじめは数学が主であったが、いまでは物理学のテクストも出版している。

微積分、線形代数、ベクトル解析、フーリエ解析、複素関数、統計学、確率論、回帰分析、微分方程式、熱力学、電磁気学、量子力学等である。

なかなかの才人であることは間違いがない。

村上雅人さんは実は超電導が専門らしいが、そちらのほうでもいくつかの賞を受賞しているようなので優秀なかたなのであろう。私も「なるほど熱力学」(海鳴社)を図書館で借りて読んだが、その書き方にはなかなか独特なところがあって、興味をそそられた。

ポスト・ノーマル・サイエンスと武谷三男

2018-08-21 11:54:53 | 日記
最近のヨーロッパの科学論とかからみて、武谷三男はもう遅れた存在だというのが2016年6月に出た「現代思想」の中で科学史家の塚原東吾さんが書いた論文にある。

彼は武谷三男が遅れた存在だとははっきり書いてはいないのだが、どうもそうとっていた節がある。それは見当違いだというのが私の現在の見解である。これは今年の12月に発行される徳島科学史研究雑誌に論文として投稿するつもりであるが、その要点を書いておきたい。

農薬が私たちに悪影響を及ぼすということがだんだん判明してきた1970年代の初めか60年代のおわりころに「朝日ジャーナル」に武谷はその悪影響がないことがはっきりしない間はその農薬を使うべきではないという論説を掲げたという。もしか、農薬が人間に悪影響を決定的に判明したころには人類が全滅しているとかいうようなことが起こらないためだという。絶対悪影響がないということが確実であることが確かめられるまではそれを用いてはならない。これが武谷の考えである。

法律では容疑者として疑わしきは罰せずというモットーがある。武谷は公害においては疑わしいことはしてはならないという。これは現在でいえば、「先行予防の原則」であろう。

その「朝日ジャーナル」の記事を読んだ、熊本の水俣病訴訟を闘っている人達が彼らの訴訟の理由としてその訴訟を結局のところ勝訴に導いた。このことは私は原田正純さんの文章から知った。

これはいまなら、「先行予防の原則」と言われているものである。この原則はアメリカからヨーロッパへGMO(遺伝子組み換え農作物)が入ろうとしたときに、ヨーロッパの側がそれを輸入しない論拠としたものである。

その武谷は「先行予防の原則」という名称をつけはしなかったが、それと同等のことをすでに40年近く前に提唱していたのだ。

最近になって科学史家の西谷正さんがテープ起こしして、50ページを超える文書になったものを読むと、武谷が単なる科学至上主義者ではなかったことがうかがえる。これは決して武谷の書いた論文等からはうかがい知ることができなかったかもしれないことである。

名古屋大学での物理の集中講義での聴講者の質問に答える形で意見を述べたところにそういう考えが出てくる。社会はすべて科学だけできまるわけではないという意見を表明する件がその文書の中にある。