わかりやすく書く才能をもった人がいる。
これは一般の人にもいるし、教育者とか研究者にもいる。多くの人の同意が得られるかどうかはわからないが、素粒子物理学関係の学者としてはSydney ColemanとかHarry J. Lipkinとかがその中にはいるのではなかろうか。
Colemanの書籍はあまり読んだことがないが、Lipkinの"Lie Groups for Pedestrians"という本は読んだことがある。昔はNorth Holland pub.から出版されていたが、現在ではDoverからペーパーバンドが出ている。Qunatum Mechanics for Pedestriansとかいう本ももっている。もっともこちらのほうはあまり読んだことがない。
こういう人は日本人にもいて、いいテクストを書いていたりする。また、わかりやすい講義をするという評判で定評のある研究者はほうぼうの大学とかグループから講義の依頼があったりする。
日本人の場合には直接名前を具体的に上げたりすると、ご本人に迷惑をかけてはいけないので、イニシャルだけにしておくが、KさんとかMさんとかが知られている。Kさんは研究者としてもすぐれた人だが、著名な研究者のNさんの流れを受けている人だと思われる。
ちょっと話が変わるが、非線形波動で独特の業績で有名だった広田良吾さんの講義を聞いたことがある。これは数学の先生が呼んだ集中講義を聞かせてもらったのだが、やはり独特のものの理解の仕方をされる人だという感じをもった。
差分法をつかって非線形波動の問題を解かれたり、されたらしい。差分法に凝っておられて、いろいろ新しいことを見つけたといっておられた。そしてこれについてすべてがわかるまでは論文を書かないと言っておられた。広田さんには『差分学入門』(培風館、1998)とか『差分方程式講義』(サイエンス社、2000)とかがある。
孤立波が崩れないで進んでいく非線形な波を差分で解くときに、前進差分とか後退差分ではなく、中心差分で解かないと波が安定ではなくなるとか聞いたような気がするが、どうも定かではない。
現代的な数学ではない、自分自らが独自の数学をつくるような感じがする人であり、「現代の和算家」というあだ名までもらった独特の人である。
(2018.10.18付記) わかりやすく書く能力という意味では『数学ガール』(ソフトバンククリエティブ)の著者の結城浩さんを忘れてはならないだろう。
彼の書いた『数学ガール』のシリーズは最終的には難しい課題と取り組んでいながら、その前の段階では数学を分かりやすく解説している。これは一種の才能である。