【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

「再ねじれ」から1年、「3・11」から4ヶ月 それぞれの“再スタート”

2011年07月11日 22時33分00秒 | 第177常会(2011年1月)大震災・3党合意

[画像]答弁者としておじぎする自民党”ヒゲの隊長”こと佐藤正久さん、2011年7月11日午後1時過ぎ、参議院インターネット審議中継からキャプチャ、トリミング。

〈国民が与えた「再ねじれ」、参議院自民党の一つの答え〉

 1年前、2010年7月11日(日)の第22回参院選で、国民(有権者)が民主党政権および国会に与えた課題は「再ねじれ」でした。再ねじれ国会では、尾辻秀久さんの副議長昇格にともなう参議院自民党の会長選挙で、世襲グループ(中曽根弘文さん、小坂憲次さん、山本一太さん、林芳正さん、世耕弘成さん、西田昌司さん)が勝ち、その主導権をにぎりました。自民党の衆参の横串だった派閥のくびきから解放された、参議院自民党はあたかも“関東軍”のような雰囲気となりました。ついには、「参院での予算審議で衆院を解散に追い込む」(小坂幹事長)、「問責決議案を提出する」(一太政審会長)とだんだん先鋭化していきました。実際に昨秋の第176回国会のネット傍聴者は参院の方が多いという逆転現象になりました。しかし、3月、これは国民でなく、天がある“判断”を下しました。年間で最大の見せ場である3月前半の予算審議中の「3・11」でした。それからの4か月、参院自民党は不発をくり返してきました。そして・・・

 国民が与えた「再ねじれ」という課題からちょうど1年・・・参議院が出した一つの答え。それは、「議員立法」でした。

 参院自民党がコツコツと議論してきた「原子力災害の(東京電力でなく)国費による仮払い法案」(177国会参法9号)が野党5党共同提出としてきょう、実質審議入りしました。法案提出者はみな非世襲議員・・・自民党の陸上自衛隊1等陸佐出身の佐藤正久さん、公明党の通産官僚出身の浜田昌良さん、みんなの党の福島県議出身の小熊慎司さん、新党改革の元福島県議で典型的「たたき上げ」の荒井広幸さんらです。

 “ヒゲの隊長”は、第21回参院選で初当選した2007年夏から4年間、北澤俊美さん(参院外交防衛委員長→防衛大臣)という好敵手の下、国会議員としての力を上げてきた感じがします。ヒゲの隊長は、おととし、「国の防衛を司る防衛大臣の言動は極めて重い。防衛大臣が前言を変えたら、困るのは部下たる自衛官である」とする内容の質問主意書を出しました。責任野党らしくて好感が持てますが、やはり野党慣れしていないのか、その主意書のタイトルは「北澤防衛大臣の発言の無責任性と防衛問題の考え方に関する質問主意書」と「無責任性に関する質問」という初めから、けんか腰でした。案の定、全閣僚が閣議で決定した答弁書では「政府としては、憲法および専守防衛などの基本的防衛政策の下で、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つことを目的とした各種施策を推進する」と軽くあしらわれてしまいました。これでも答弁書としてはていねいな方ですよ。こういうのはたいてい20代前半の新米キャリア官僚が書いているとされています。ところで、ヒゲの隊長が福島県出身であることは「3・11」で初めて知りました。そして、きょう筆頭発議者として、答弁デビューしました。やはり陸自の隊長になるような人は、どんな世界でも通用するし、体が丈夫ですから、これからドンドン責任あるポジションで活躍していくことになるんだと考えます。

 午後2時半ごろ、みんなの党の松田公太(まつだ・こうた)さんが質問に立ちました。スター選挙区の東京選挙区で、最下位5位に滑り込みました。その松田さん、「きょうは東日本大震災から4ヶ月」「私が当選した第22回参院選から1年」と述べました。週末に被災地に行き、配偶者と2人のお子さんを亡くされた被災者と会ったときに、「この1年間、私自身ナニやってたんだろう」「この4ヶ月間、政治家はナニをやってたんだろうと思った」とし、「今日から被災者の人をしっかりとみて、再スタートしたい」としました。この質疑中に松田さんは「いまちょうど2時46分になりました」と話し、他の委員が第1委員会室の時計を見上げる光景がみられました。こういった流れをつかむ松田公太さんの非凡さを感じました。この松田さんにも「大化けの予感」がありますが、どうなるでしょうか。

 

 ねじれ国会が熟議で再スタートしました。

〈骨抜きされた地方一括交付金は沖縄県限定で再スタート〉

 さて、きょうは2009年8月30日の第45回衆院選からの再スタートがありました。民主党幹事長の岡田克也さんは11日の定例記者会見で、枝野幸男官房長官に提言を出した「沖縄振興一括交付金」の「一括交付金」の意味について、マニフェストに盛られた地方一括交付金のことだとの認識を示しました。そして沖縄県をモデル地区にして、権限を「各府省の根っこから断ち切って」沖縄県に一括してオカネを渡し、使い方は「沖縄県に決めてもらう」としました。

 岡田さんは、「地方一括交付金は、マニフェストの中でもうたった地方主権の改革の柱です。そのなかで、沖縄(県)を、モデルとして位置づけてやっていこう」としました。なお、2009マニフェストでは「地域主権」という言葉を民主党は使っていましたが、いわゆる「地域主権3法案」について、今国会で、自民党の修正要求に基づき「地域主権」という言葉を削って、成立させました。ですから、「再ねじれ」の中で、振るい落とされて、「地域主権」という言葉は消えたと考えるのがスジです。

 これは岡田さんが、霞が関の抵抗・骨抜きの盲点を突いたのだと思います。私は「総務省主管の地方一括交付金」になるのだと思ったのですが、「内閣府主管の地域自主戦略交付金」に骨抜きされました。ただ、橋本行革で、北海道開発庁は「国交省北海道局」になりましたが、沖縄開発庁は「内閣府沖縄振興局」になっています。また、今年度予算書では内閣府に盛られた「地域自主戦略交付金」は、沖縄だけ別の費目で計上されています。ですから、これを沖縄振興一括交付金として、マニフェストの原点に戻ろうという考え方だと思われます。

 いわば、苦しいときこそ、原点に戻る。君子は本を務む、本立ちて道生ず。マニフェストの地方一括交付金の原点を、霞が関の骨抜き工作の盲点をついて、内閣府と沖縄県に突破口を見つけたのだと考えます。

 ハットカズ(HAT-KZ)といって、これは長妻昭さんが野党時代に提唱したもので、「ひも付き補助金」「天下り」「特別会計」「官製談合」「随意契約」の頭文字です。これらは、すべて、各府省から自治体への「補助金」を断ち切ると、天下りを受け入れる必要もなくなるし、官製談合も随意契約もなくなり、自治体が元気になり、国および自治体ひっくるめた公会計の総額が安くなります。長妻さんは現在「筆頭副幹事長」として党本部幹事長室にいます。

 そして、「いくつものステップを踏んだ上で」、税源移譲がゴールだとの認識を岡田さんは示しました。そして、岡田さんは、二大公共事業官庁である、国土交通省と農林水産省の両大臣(大畠章宏さんと鹿野道彦さん)にきょうあすで会って、「覚悟をもってやってほしい」と強調します。また、枝野官房長官が土曜日に菅直人総理に話しており、総理と官房長官のラインはできているということです。少し青空が広がった気がします。

 このように、各省にある紐付き補助金の温存を図る官僚が、内閣府に置いた「骨抜き地方一括交付金=実質は紐付き補助金」を、岡田さんがターゲットにしたのではないか、と私は推測しています。

 ちなみに事務次官人事の季節ですが、ことしは震災と延長国会で止まっていますが、農水省の町田勝弘事務次官に続き、岡田さんと同じ昭和51年入省組がドンドン事務次官になります。ときどき「岡田さんに官房長官をやってほしい」という人がいますが、私は岡田さんが官房長官をやったら霞が関と大げんかになると考えます。ですから、もっと民主党支持率が高くないとその人事案はないと考えます。そして、岡田内閣総理大臣というのは、それこそ今の民主党のレベルでは議員がついて行けません。岡田さんは木曜日で58歳になりますが、何となく雰囲気や政界ポジションが似ている鈴木貫太郎が首相になったのは77歳で、大隈重信は78歳まで首相を務めています。まずは民主党の底上げです。

 骨抜きにされたマニフェストの地方一括交付金は、沖縄県限定で再スタートしました。

〈村松岐夫・衆議院小選挙区画定審議会会長に岡田幹事長がメッセージ〉

 記者会見で岡田幹事長は、来年2月に迫っている小選挙区の区割り案の策定作業が止まっていることに関連して、「(国会が)1人1枠方式を認めないという(最高裁判例を公職選挙法に反映させる)ことになれば、21増21減(案)でやるのか、あるいは選挙制度を変えるのかというどちらかの選択肢しかないだろう」と語りました。7人の委員で構成する衆議院選挙区画定審議会の村松岐夫(むらまつ・みちお)会長(京大名誉教授)は3月28日に記者会見し、「「国会や各政党、各会派が議論を開始されると思う。その結論に注目する以外ない」として1人1枠(いちにんいちわく)方式に関する国会の答えがでるまで、区割り見直し作業を一時中断ています。

 衆議院議員選挙区画定審議会設置法では「衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し」「その改定案を内閣総理大臣に勧告するものとする」とあります。ですからこの審議会は小選挙区を前提にしたものです。ということは、岡田さんの「21増21減か選挙制度を変えるのかという選択肢しかない」というのは、村松会長らに「21増21減で作業を進めてください」というメッセージであると考えられます。審議会は官僚の手はなるべく借りずに7委員の手でやるべきです。今回は平成の大合併による、自治体ごとの見直しも必要です。選挙の投開票事務などは法定委託事務ですから、現在のように、一つの基礎自治体が2つの選挙区の投開票作業をしていると、おそらく日本全体で、10億円程度の国費が“ムダ”になっているのではないでしょうか。いまどき10億円は大きいです。ぜひ、村松先生らは、21増21減で区割り案をつくってほしいと考えます。これは私の考えですが、きょうの岡田幹事長の発言はそういう意味で、ほぼ間違いないと考えます。

 これは第46回総選挙に向けたスタートといえるでしょう。3月でいったん作業が進んでいましたが、村松さんら7委員は見切り発車で再スタートしてください。

 私は日本の歴史の転換点に立ち会い、きょう「歴史の証人」となっていることをうれしく感じています。日本には底力がある。そして、それを上手く分配していくためにどうするか、もっと積極的に政治の議論をする。そのたった一つの工夫だけで、日本は復活できるでしょう。7・11からの再スタートです。