【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

正常化で動き出した国会

2011年07月09日 21時14分55秒 | 第177常会(2011年1月)大震災・3党合意

 6月23日(木)から空転していた延長国会ですが、7月6日(水)の衆院予算委の集中審議(全閣僚)、7月7日(木)の参院予算委の集中審議(総理と閣僚)で正常化しました。8日(金)は衆・厚労委で「新型インフルエンザの予防接種に関する特措法の改正案」(174閣法55号)が可決され、同日午後の衆院本会議で参院へ。衆・厚労委(民主党・渡辺周筆頭理事自民党の加藤勝信、田村憲久公明党の古屋範子理事)はあいかわらず「働きます委員会」です。これまでの宿題が山積みだからという状況もあるので手放しで褒められませんが、衆参の厚労委は今国会で議員立法も3本仕上げています。

 このように、延長国会では、法案審査も正常化してきました。

 そして、8日(金)には、衆本で「原子力賠償スキーム法案」(177閣法84号)が審議入り。一方、参院では「原子力災害の国費による仮払い法案」(参院自民党など野党5党提出、177参法9号)が審議入り。そして、来週月曜日には、衆・東日本大震災復興特別委員会で「スキーム法案」、参・東日本大震災復興特別委員会で「仮払い法案」が同時に動くという、「両院制(2院制)」らしい国会フル操業がみられます。これは衆院側で閣僚が答弁し、参院側で提出者の自民党・佐藤正久さんら野党5党が答弁するので可能になったわけです。しかし、ねじれ国会による国政の停滞による参議院に向けられた厳しい目も影響していると思われます。私も今第177国会では、ねじれのおかげでだいぶ勉強させていただきました。岡田克也幹事長もそう思っていると考えます。安住淳・国対委員長も、10年後にはそう振り返るでしょう。

 特例公債法案(平成23年度の赤字国債発行法案、閣法1号)については、参院・財政金融委員会の荒木清寛理事(公明党)が、7日のTV入り予算委員会に乗り込みました。そして、4月29日の3党政調合意について、「公党間の信頼を損ねた」として、菅直人首相を激しく批判しました。荒木理事が怒るのはムリもなく、たいていは3月に参院財金委に回るこの法案ですが、3党政調会長協議のストップにより、7月になっても参院に回っていません。いまだに衆院財金委に残っています。そこで、参・財金委は、一般質疑で、自民党の林芳正さんらが野田佳彦財務相らに「早く回せ」と議論していますが、法案そのものが来なければ、参院はどうにもなりません。荒木さんが怒るのは当然でしょう。で、その翌日7月8日(金)に、3党政調会長(玄葉光一郎さん、石破茂さん、石井啓一さん)が協議を再開しました。翌日付日経2面は「自公、ハードル下げる」「子ども手当の見直しを必ずしも法案成立の前提条件にしない方針」を示したそうです。ただ、公明新聞は「子ども手当 実務者で見直し協議へ」としています。民主党ニュース(ホームページ)では「実務者協議は、民主党政調会長代理の城島光力さん、自民党政調会長代理(元厚労副大臣)の鴨下一郎さん、公明党副代表で元厚労相の坂口力さんが務め」、「12日(火)夕方に3党政調会長協議をする」ということになっています。こういった情報はこれまでなかなかディスクロージャーされていなかった情報で、民主党広報委員会には頑張ってほしいです。一方、「子ども手当」については、やはり坂口試案の方向性で決着しそうな気配です。特例公債法案に光明がみえてきました。

 それから、「東日本大震災の二重ローンの債権買い取り機構」(自公案は参院に提出、民主党案は未提出)についてですが、8日(金)の衆・財務金融委員会の一般質疑で、珍しいやりとりがありました。与党時代に財務副大臣を務めた自民党の竹下亘・野党側筆頭理事が、「まとまれば民自公で法案を出したい」「政府(民主党)は法案は出さずに政令で出したいと聞いている。なぜ閣法を出さないのか?」と質問しました。これに対して、金融庁を担当する内閣府政務官で民主党の和田隆志さんが「現状は、自民党が法案を用意しているとうかがっている」として、閣法は出さない方針を黙認しました。これに対して、竹下さんは「その自公案を参考にしながら、民自公で実務者協議をしている。できれば閣法として提出して欲しい」と“お願い”しました。野党が政府・与党にこのような“お願い”をするのは極めて異例だと思います。やはり、菅政権の法案の作成能力が遅いということがうかがえます。もちろん、この債権買い取り機構について、「被災3県と茨城県で、県ごとに機構をつくり、中小企業融資の独立行政法人に加えて地域金融機関にも出資させる」という構想を日経が報じました。これには、県域営業が基本の、地方銀行、信用金庫、信用組合からもオカネを出させたい、という金融庁あるいは財務省の狙いが見え隠れします。ぜひ、日本国憲法第83条の「財政民主主義」という基本に、国難のときだからこそ、立ち戻ってほしいと考えます。ちょっと調べましたが、この条文は400年近く前のイギリスでの国会開設運動にまでその思想はさかのぼります。また、これは権力闘争によって勝ち取った「被支配者(有権者)の権利」だそうで、大事にしたい物です。

 また、空転中の先週末7月1日(金)には、自民党の小里泰弘さん、谷公一さん、公明党の西博義さん、みんなの党の山内康一・国会対策委員長、たちあがれ日本幹事長の園田博之さんら野党4党が「がれき処理の(自治体の希望による)国の代行を可能とする特別措置法案」(177衆法19号)を衆院の鬼塚誠事務総長に提出しました。これは災害廃棄物(がれき)の処理で手一杯の自治体が国に代行する「補完性の原理」を定めた法案です。こういった法案が閣法で出てこないのは、政務三役の責任の下にあるとは言え、官僚の能力が落ちているからだと考えます。そして、消極的であってもそれは、菅政権というよりも日本国への背信行為になりかねない、ということをよく自覚して欲しい。

 今週の国会で気になったのは、正常化直後の6日(水)の衆・予の午前9時台の宮城1区民主党の郡和子さんの質問で、前夜に就任した平野達男・復興相が答弁に立つと、委員席から拍手がわきました。この後、細野豪志・原発事故担当相が答弁に立ったときは、まったく拍手がありませんでした。しかし、国会会議録上は、細野大臣も、これが就任後初登場であり、平野さんと同様です。かつて、将棋の羽生善治さんが「7冠」になったとき、「7冠よりも、後世に残る棋譜を残したい」という趣旨の発言をしたのが印象に残りました。今はチャンスです。国難のこの第177国会の議事録は後世、何度も読み直されるでしょう。そいう意味では、8日(金)の衆本で、総理に対して、賠償スキーム法案で代表質問になった民主党1期生が、この人がとても頑張っているのはよく聞いていますが、東京電力福島第一原子力発電所周辺の動物の保護について、質問したのが気になりました。本論と関係からです。この議員がこの問題でタイヘン良くやっていること、また政調や議連の声が政府に届いていないのは分かります。しかし、被災者のことも考えれば「我慢(Patience)」も与党議員の仕事なのではないかと思いますが、どうでしょうか?もう少し、小説のように「流れ」「ストーリー」というものをみんなが意識して国会を運営して欲しいものです。

 さて、来週月曜日である7月11日は、第22回参院選の民主党敗戦・自民党勝利による「再ねじれ国会」から1周年です。それを思えば、民主党執行部は1年間、よく頑張ってきました。ところで、参議院史上1回しかない首相問責決議の審議を、参本一般傍聴席で見たことを思い出します。趣旨弁明は輿石東さん、賛成討論は簗瀬・参院国対委員長でした。そして政権交代で与党になった第22回参院選で輿石さんは18・7万票(得票率43・0%)と自民党の宮川典子候補に18・3万票(得票率42・2%)まで追い上げられる危機一髪の勝利。簗瀬さんは賛成討論で「総理主催の桜を見る会で」「女優の菊川さん、タレントの眞鍋かをりさんに囲まれた総理は、物価が上がる」「しようがない」と攻撃して、全体の文脈としては問題なかったのですが、あたかも福田康夫首相が菊川怜さんや眞鍋かをりさんと桜を見たから問責するかのような趣旨にとられかねない演説に感じられました。簗瀬さんは自民党とみんなの党のはさみうちにあって落選してしまいました。このような野党時代の体験も踏まえて、輿石会長は、問責を出せないように、参院自民党も、参院民主党もしっかりおさえているのだと考えます。月曜日の、ヒゲの隊長や、元福島県議のみんなの党の小熊慎司さんらの答弁が楽しみです。こういった非世襲グループががんばって、参院自民党を食い物にする世襲グループ(中曽根弘文会長、小坂憲次幹事長、山本一太政審会長)と民主党内世襲グループ(小沢一郎さん、鳩山由紀夫さん、田中眞紀子さん)らの復興利権をねらう6月1日以降の不信任政局の不安定をなだらかにすべきです。不安定はいけません。波風はいりません。参議院の将来のためには、世襲グループは問責決議案を提出しないという選択をすべきです。

 また7月14日(木)の衆本で「再生可能エネルギーの全量固定価格買い取り法案」(閣法51号)が趣旨説明と代表質問で審議入りする見通しです。そして、15日(金)には、第2次補正予算案が提出され、衆参本会議で、野田財務相の演説と代表質問が行われる見通しです。来週はかなり忙しくなりそうです。フル操業といきましょう。