【国務大臣の演説(総理施政方針など政府4演説)に対する各党代表質問 2012年1月26日(木) 衆・本会議】
野田佳彦首相の施政方針演説、玄葉光一郎外相、安住淳財務相、古川元久経財相の演説に対して、自民党総裁(影の首相)の谷垣禎一さんが代表質問しました。
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「野田vs谷垣」の初日ですが、勝負の始まりの立ち会いで、お互いに奇策をろうしたので、「立ち会い不成立」です。ともに構図を立て直すべきです。野田さんは福田首相・麻生首相の過去の議事録を引用しました。気持ちは分かりますが、心にストンと落ちません。一方の谷垣さんは、麻生政権下の「附則104条」があるから、消費税増税法案の提出は認めるとしながらも、マニフェストは約束違反だから、「2年半前の総選挙は無効なのでやり直せ」という趣旨にとれる発言。解散総選挙とは、「直近の民意」を問うものです。だから衆院は優越するんです。それをあたかも選挙が無効だからやり直せ、と受け止められる主張は説得力に乏しい。ひょっとしてことし9月の自民党総裁選を心配しているのではないかと自民党内外から見透かされそう。
ともに作戦を練り直して、分かりやすい構図を示し直すべきでしょう。
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谷垣さんの原稿は自民党ホームページに演説から4時間後ぐらいにアップされました。
http://www.jimin.jp/policy/parliament/0180/115432.html
ぜひ、自民党もドンドン情報発信して欲しいと考えます。また英国庶民院では、水曜日の党首討論を3時間後に議事録をアップしています。ブレアさんが首相のころは1週間でもっとも憂鬱な時間で、なぜかアメリカ人や日本人が大好きで話題になる時間だと振り返っていますが、メリハリを利かした国会運営は見習うべし。代表質問といっても、きょうの谷垣演説は自民党のことし1年の国会運営の基本方針を示したと考えられますから、しっかりおさえておきたいところです。
谷垣演説では「一税率を内容とする消費税率引上げ法案を提出する以上、政府は、軽減税率に代わる低所得者対策である給付措置の具体案を当然示すべきです」「消費税率引上げ法案の提出までにその具体的設計、費用及びその財源を政府・与党の案として示すことは、法案提出者の義務だと考えますがいかがですか」と述べました。
ここで、消費税をめぐる議論の土俵、枠組みの設定で重要な発言がありました。
2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げる法案が出てくるわけですが、世論では、「食料品は安く」「生活必需品は安く」と言った軽減税率、あるいは複数税率の要望が出ています。ただ現在、食料品に5%の消費税がかかっているので、2014年4月は「食料品5%、それ以外8%」となるのは、現実的でありません。さらに言えば、「キャビアが5%でトイレットペーパーが8%」となるし、「外食店からのテイクアウト(お持ち帰り)は5%、店内なら8%」となります。ここはフランスが「制度設計に失敗した」としていまだに悩んでいるそうです。
おそらく党議決定はしていないでしょうが、自民党も単一税率での増税準備法案を容認していると考えられます。これで議論すべきでしょう。きょうの日経新聞では、低所得層に年1万円を支給するという暫定的なアイディアが報じられました。2015年10月からは共通番号による給付付き税額控除ということになりますが、この制度設計が議論の的になりそうです。
そして、谷垣さんは「21年度税制改正法附則第104条を策定したわが党として、この規定に基づく政府の3月までの法案提出を妨げるつもりはありませんが、野田総理、本来、民主党政権に提出の権限は(マニフェストで)国民から与えられていないのです。野田政権の採るべき道は、有権者に謝罪をした上で、解散総選挙を行い、国民に信を問い直すしかありません」としています。
しかし、第171通常国会(麻生自民党、政権交代解散国会)で成立し、天皇陛下が公布した法律と、あいまいだったマニフェスト。マニフェストというのは法律上の規定はありません。「公職選挙法142条の文書図画(とが)の頒布(はんぷ)」に規定がありますが、「マニフェスト」という言葉は登場していません。だったら、法律はマニフェストに優先するという考えがあってもいいのではないでしょうか。野田さんが謝り、野党として自民党が水に流すということがあっていいのではないでしょうか。「マニフェストの見通しが甘かったから総選挙をやり直せ」という考えの有権者は少ないと考えます。そういった過ちを踏まえた上で、次に目が向いているのではないでしょうか。
というのは、野田さんは施政方針演説で福田康夫首相、麻生太郎首相の言葉を引用しました。福田さんは民主党が参院史上初めて総理大臣として問責決議をしているし、麻生内閣不信任決議案の賛成討論は野田佳彦さんがやっています。ちなみに、内閣不信任案の討論に野党第1党の幹事長代理が登壇したのは極めてマレで、これは当時の岡田克也幹事長が野田さんに譲ったと考えられます。その2ヶ月前の代表選では、野田さん率いる花斉会が選対のコアメンバーを担いました。
それから、野田さんが昨年の党首討論で自民党が出した「財政健全化責任法案」(衆法)の言葉を使っているようですが、この衆法のタイトルを口にすべきではありません。無視を決め込む。この法案は自民党がはじめ参法(筆頭発議者・林芳正さん)として出していたのを取り下げて、衆法(同・後藤田正純さん)として出し直したものです。ここからして何らかの思惑を感じました。そこで、よく読んだら、これは陰謀がある「地雷のような法案」と気づきました。民主党国対・議運幹部に「気を付けた方がいいですよ」と伝えたら、「あんなの審議しないよ!」との答えで安心しました。が、民主党は連絡が悪いようで、代表だった菅直人首相が「この法案を審議してもいい」という趣旨のことを国会で答弁しました。おそらく思い付きでしょう。肝を冷やしましたが、やがて言わなくなりました。この法案はちょっとでも審議入りしたら、「民主党は財政健全化責任法案をちゃんと審議しない、財政に無責任な政党だ!」とキャンペーンを張ろうという魂胆がみえみえです。タイトルからしてみえみえです。そしてやはり、年の初めの野党として最大の見せ場で、谷垣さんが攻撃材料に使ってきました。次の一節です。
「私は、昨年11月末の党首討論で、野田総理が、わが党が提出した「財政健全化責任法案」を引き合いにして、素案を政府でまとめるから自民党も協議に応じるべきと私に迫ったことを忘れてはおりません。総理は今回、法案が求める財政健全化計画の中期計画を策定することもないまま、法案の命とも言うべき財政健全化目標を蔑ろにするという、法案無視の愚かしい選択に及びました。今となっては、あのときの野田総理の物言いは、あの法案を葬り去った民主党の代表が「素案」という法案との言葉の一致だけをよりどころにわが党に協議を迫り、わが党が責任野党として法案に込めた思いを言葉遊びで踏みにじったものとしか受け止めようがなく、怒りに堪えません。まずは党首討論における発言の謝罪及び撤回を求めます。更には、政府はこれまで、今回の「社会保障・税一体改革素案」の表題は「財政健全化責任法案」の文言を引用したものとの説明をしていますが、そうであれば即刻その表題を撤回すべきです。わが党にあまりに失礼です。総理いかがでしょうか」
もうこれを読んでも分かるように、野田内閣は、この法案の名称自体ふれない方がいいですよね。アブナイです。
その一方で、谷垣さんは、今までの自民党総裁や政権準備政党(野党第1党)党首がほとんど語ることがなかった次のような骨のある本質的な演説をしました。資料的な価値もあると思うので、引用します。
「私たちは議会制民主主義の歴史が租税とともに歩んできた ことを忘れてはなりません。
すなわち、今日の議会制民主主義の繁栄の淵源は、1215年でイギリスにおいて大憲章「マグナ=カルタ」に盛り込まれた「議会の同意なく税金、戦争協力金などの名目で課税してはならない」という条項にあります。
爾来、国家の課税に対する国民の意思こそが、人々の政治への参画、ひいては議会制民主主義の発展の原動力となったのであり、このことはその後の「権利請願」及び「権利章典」を始めとするイギリス議会の歴史、「代表なくして課税なし」をスローガンとしたアメリカ独立戦争の歴史、主権在民を前提として納税の義務を明記したフランス人権宣言が示しています。
私たちの議席はこうした長い歴史の積重ねと先人たちの文字通りの血と汗の上に築き上げられたものであり、その証が今日の憲法が定める租税法律主義の規定です。民主主義の下では租税の分担ルールである税制が国民の合意の下によって決定されることが、国民の納税の義務を支える礎であり、であればこそ、税制は主権者である国民に正直に訴え、その訴えが受け入れられるとその意思を反映して、国民の代表で組織される国会で法律により議決されるのです」
このように骨のある演説が出てきたことをうれしいです。君子は本を務む、本立ちて道生ず。自民党、頑張ってください!
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