ニュースサイト宮崎信行の国会傍聴記

元日本経済新聞記者の政治ジャーナリスト宮崎信行が衆参両院と提出予定法案を網羅して書いています。業界内で圧倒的ナンバー1。

山口那津男さん、消費税「上げるな」、「解散しろ」と言及しない“ステルス演説”でスタート

2012年01月31日 09時09分51秒 | 第180通常国会(2012年1月~9月)一体改革

[画像]代表就任後の初めての国政選挙で熟考する山口那津男さん。選挙区候補者が全員上位当選するなど党再建の橋頭堡を築いた=2010年7月、NHKニュース映像から。

【2012年1月23日(月) 参院本会議 施政方針など政府4演説への代表質問】

 公明党代表で参院議員の山口那津男さんがことし初の国会登場です。衆参の関係で、井上義久幹事長が金曜日に質問演説しています。

 すべての議案の成立には、参院での公明党の議席がカギになりますから、参院議員である山口代表のことしの初演説は注目されましたが、熟考の後がうかがえるよく練られた演説でした。いわば、巧みな「ステルス戦術」。おそらくテレビニュースでは伝わりにくかったでしょう。というのは、野党党首の代表質問お決まりの「解散」、「総選挙」という言葉が一つもありませんでした。

 どうしても、テレビニュースは1分未満に切り取る関係から、野党はいつも「解散」と言っています。とはいえ、解散発言を報じないわけにもいきません。また野党党首は解散発言をしないと、地元を這いずり回る支部長、党員・支持者が聞いているとういう組織の論理がある。それは当然でしょう。その点、山口さんは巧みでした。さらに「消費税」という言葉を7回使いました。「社会保障と税の一体改革」など、すべて含めて、演説原稿では、合計13回「税」という言葉が出てきますが、「消費税を上げるな」「消費税増税法案を提出するな」という発言は一つもしませんでした。そのうえで「総理逃げないでください」と与党が年金の全体像と(昨年民主党調査会が作成したとされる将来的な税財源の)試算を出せ、そうじゃないと与野党協議に応じない、という論陣を張りました。

 山口さんは消費税という言葉、合計7回を次のように使いました。

 ◇

 (1)

 「施政方針演説には」「消費税増税に言及されましたが」「その前提となる課題への取り組みについては聞こえの良い言葉を並べただけで、重要政策の全体像について、何一つ示していないではありませんか。

 (2)(3)

 「消費税は4年間上げない、との国民との約束はあっさりとギブアップ。消費税増税の実施は4年を過ぎて(2014年4月)からと言い訳してみても、それが詭弁であることはとっくに国民に見抜かれています」。

 (4)~(7)
 「年金の抜本改革すなわち国民年金を含むすべての年金の一元化と全額消費税でまかなう最低保障年金月額7万円との主張は、もう10年越しの(民主党の)金看板ではなかったのですか。出し惜しみ、先送りの必要はないでしょう」。

 「現に先日も、民主党幹部や閣僚から全体像を示そうとの発言も出たではありませんか。国民は現行制度に基づく素案と民主党のいう抜本改革案を比べて、消費税の負担がどうなっていくのか、受け取る年金がどうなっているのか、これを知りたがっているのです」。

 「総理、逃げないでください。試算の一部が報道されて、膨大な消費税が別に必要となるとか、受け取る年金額が現行制度より減る人がいるとか、それぐらい言われたくらいで(試算を)隠さないでください。不退転の決意が泣きます。また、議論の時間がかかるとか、すぐに消費税がかかるわけではないとか」「正心誠意の総理らしくありません。堂々と全体像を示して協議できる環境を整えていただきたい」。


[写真]山口那津男さんの質問演説の原稿、2012年1月=筆者撮影。

 ◇

 このように合計7回、「消費税」という言葉が出ました。が、山口さんは「上げるな」「法案を出すな」「法案を出す前に解散しろ」とはヒトコトも言いませんでした。

 消費税と年金はまさに「一体改革」であり、年金の全体像を示すべきだ、それができれば与野党協議に応じるとの姿勢。「受け取る年金額が現行制度より減る人がいるとか」の後に、原稿になかった「それぐらい」を付け加えて、「それぐらい、言われたぐらいで隠さないでください」と演説しました。

 「それぐらい、言われたぐらいで」ーー「現行制度から減る高年収者」のことを気にして、「最低保障年金(個人で月7万円)がホントウに必要な人・世帯」のための一体改革を先送りしてはならない。公明党の「大衆とともに」の立党の精神がにじみ出ました。まさに熟考です。

 衆参ねじれの1年半、公明党の演説はかなり変化球が多くなっています。今回の「年金の全体像と試算を出せば、与野党協議に応じる」との意味合いのボールも、クセ球との見方もあります。つまり、政府・民主党は年金の全体像と試算を出せないだろうから、公明党が与野党協議に応じなくても批判を浴びないーー。これはたしかにあるかもしれません。しかし、このボールを野田首相が打ち返したら、ヒットかゴロかは分かりませんが、公明党はキャッチする。論客はそろっています。修正協議に応じられるローメーカーもそろっています。これは野田さんは打ち返してみればいいのではないでしょうか。

 試算ですが、すでに新聞が報じています。最低保障年金の年収制限の設定を4ケースにわけて、2035年、2055年、2075年、2095年にどうなるか。合計4×4の16の数字。例えば、「最低保障年金を全額消費税でまかない、年収260万円までは7万円、そこから下り坂にして、690万円以上は所得比例年金だけにしたら?」。この場合、2075年の消費税率は「17・1%」になると試算しています。2075年のGDPと人口ピラミッドの試算がなければ、計算できません。ということは、新聞社はこの「昨年の民主党調査会の試算」を全部持っていると考えるのが妥当でしょう。ならば、民主党政府が出さなければ、日曜日辺りの1面トップで全部出してくる新聞社が出てくるでしょう。そこで解説などが不十分になることを恐れるよりは、もう出した方がいいでしょう。

 「総理、逃げないでください」ーー野党・公明党代表の言葉はしっかり響きます。前総理に「総理、逃げるのか!」と叫んで両院議員総会で後ろから総理の鉄砲を撃った与党政府外議員もいましたが、国会での山口さんの「総理、逃げないでください」は、実は総理を助けている。さすがは細川内閣で防衛政務次官を務めて、自公政権では党政調会長を務めた山口さんです。

 これはしっかり乗るべきです。

 変化球でも、バットを振ってみないと、結果は分かりません。攻撃は最大の防御。自民党時代とは、日本を取り巻く環境が大きく変わっています。スピードが大事です。一つ一つ乗り越えていく。とにもかくにも、前に進むしか、先は見えてきません。前へ。

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