ニュースサイト宮崎信行の国会傍聴記

元日本経済新聞記者の政治ジャーナリスト宮崎信行が衆参両院と提出予定法案を網羅して書いています。業界内で圧倒的ナンバー1。

官公労のドン輿石東さん、トロイの木馬(公務員庁新設・人事院廃止法案)撤回へ 給与削減法成立めど

2012年01月25日 20時45分38秒 | 第180通常国会(2012年1月~9月)一体改革

[写真]民主党幹事長で参院議員会長の輿石東さん。

 きょう2012年1月25日早朝、連合会長の古賀伸明さん(電機連合)と、経団連会長の米倉弘昌さん(住友化学)が会談し、さあいよいよ2012年春闘がスタートしました。言うまでもなく、春期生活闘争は賃金だけでなく働く仲間の環境を整える1年でもっとも重要な運動です。ただ、連合傘下の産別で、これに参加しない産別があります。それは、「自治労」、「日教組」、「都市交」、「全水道」といった官公労です。これは、人事委員会勧告により給与改善が図られるので、経営者(市長ら)との春闘はありません。

 昨年の第179臨時国会で積み残しになった「国家公務員給与7・8%削減関連法案」(第177国会閣法74号~80号)の成立に向けた3党協議が整いつつあります。前原誠司さん、茂木敏充さん、石井啓一さんの民自公3党政調会長が合意に近づきつつあります。

 ところで、この「関連法案」の中に、“トロイの木馬法案”と表現してもいい、一部中央官僚が焼け太りするトンデモない法案がまぎれていることにどれだけの人が気付いているのでしょうか。

 「公務員庁設置法案」(177閣法76号)がそれです。

 この法案には次のような内容が含まれています。

 (1)内閣府設置法に基づいて、内閣府の外局として、「公務員庁」を設置する。
 (2)公務員庁は、国家公務員の人事行政、行政機関の機構、定員に関する事務を総合的かつ一体的に遂行することを任務とする。
 (3)国家公務員の任免、分限、懲戒、服務および退職管理、人事評価、退職手当制度、団体交渉及び団体協約に関することをつかさどる。
 (4)行政機関の機構、定員並びに運営の改善及び効率化に関する企画及び立案並びに調整。
 (5)各行政機関の機構の新設、改正及び廃止並びに定員の設置、増減及び廃止に関する審査。
 (6)独立行政法人に関する共通的な制度の企画及び立案。
 (7)公務員庁に退職手当審査会を置く。
 (8)公務員庁に、地方支分部局として、管区国家公務員局を置く。

 まず(8)の出先機関の新設は、「出先機関を原則廃止する」とした民主党マニフェスト違反です。もちろん2月10日付で内閣府復興庁のもとに「復興局」と支所という出先機関が新設されるわけですが、これはマニフェスト後に大震災があったからしょうがない。

 そして、(4)~(5)では、行政機関の機構の新設に関して企画、立案、調整、審査ができるとなっています。これは行政改革の権限を、国会や、国会議員である政務三役から奪いとることにほかならないでしょう。

 そして、(2)(3)をみると、人事院が持つ機能を、内閣府公務員庁が奪うという条文と考えられます。人事院の設置根拠は国家公務員法第3条で「中央人事行政機関」として「内閣の所轄の下に人事院を置く」とあるのが根拠です。

 国会提出中の「国家公務員法改正案」(177閣法74号)を読むと、「(国家公務員法の)目次を次のように改める」とあり、その目次を見ると、人事院の規定がまったくなくなっています。

 ナント、「新しい目次」から「第2章 中央人事行政機関 第3条 人事院」の規定がそっくりそのまま消えて無くなっているのです!

 同法案の附則には「第二条第三項第三号中「人事官及び」を削り、」とあります。現行の国家公務員法は、特別職として「内閣総理大臣、国務大臣、人事官及び検査官・・・」と列挙されています。3人いる人事官が互選して選んだ1人が「人事院総裁」です。すわなち、177閣法74号は「人事院廃止法案」です。人事院が廃止されれば、当然、人勧(人事院勧告)は廃止です。国の人勧が廃止になれば、地方の人勧(人事委員会勧告)もやがて廃止になるでしょう。地方公務員法も国の法律であり、国会が審議する法規です。

 「公務員庁設置法案(177閣法第76号)」と「国家公務員法改正案=人事院廃止法案(177閣法第74号)」という“トロイの木馬法案”が潜んだのが、「国家公務員給与7・8%削減関連法案」なのです。仮にこれを年末の臨時国会で成立させたら、行革も、天下り独法の改革も、定数管理も、職員の懲戒処分も、省庁の新設も廃止も、定員削減も、すべて内閣府公務員庁の仕事になっていたところでした。また職員の採用試験も人事院廃止後は公務員庁になっていたところでした。

 私は、公務員にも団体交渉権や団体協約締結権を認めるべきだと考えています。労働基本権を整えるべきです。しかしそれは制限付きです。例えば国家公務員なら自衛官の労働基本権は制約を受けるべきであり、その代償として人勧(人事院勧告)は必要だと考えます。そして、地方公務員でも、消防職員や警察職員は制約を受けるべきで、それの代償としての人勧(人事委員会勧告)は続きます。

 私がこのことに気付いたのは、秋の臨時国会で政府特別補佐人の江利川毅・人事院総裁の一連の答弁です。「人勧不実施は憲法違反だ!」と主張する江利川さん。「あのジェントルマン江利川がどうしたんだ?」という疑問を持ちました。これをきっかけに、よく法案を精査したら、このことに気付きました。では、このトロイの木馬を潜ませたのは誰か。あくまでも推測ですが、私は総務省人事・恩給局の幹部なのではないかと思っています。「恩給」はもちろんいいのですが、「人事」の方です。仮に「総務省人事局」(旧総務庁人事局)とすれば、人事院廃止で内閣府公務員庁ができればその主力部隊に横滑りすることができます。出先機関の「管区国家公務員局」には、総務省行政評価局の出先機関である「管区行政評価局」の全国1000人の職員を幹部にして、より多くの職員を雇うこともできるでしょう。地方公務員では、官公労は幹部は各々自治体職員なのだから、国の「人勧廃止」を地方にも波及させようと考えるのではないか。このため、政権交代により初めて面通しができるようになった総務省人事局と官公労がタッグを組んでいるのではないか。あくまでも推論ですが、そう考えています。

 で、言うまでもなく、官公労の国会におけるドンは、輿石東さんです。

 そこで、私は年の納めの2011年12月27日の民主党幹事長会見でこのことを聞いてみました。

 私は「公務員給与7.8%削減の関連法案の中に公務員庁設置法案がある。これは人事院を廃止して内閣府公務員庁を設置し、出先機関を新たにつくる。人事院を廃止すれば人事院勧告も当然廃止でしょう。そして行革があるときにはこの公務員庁が企画立案するとなっているから、当然政治家ではなくて、この公務員庁の許可がなければ行革はできないと思う。この公務員庁設置法案を次の通常国会で取り下げるお考えはあるか」と聞きました。

 これに対して、輿石さんは次のように答えました。

 「それは当然いろいろな関連で考えられる1つの方策かもしれません。今、人事院勧告がなんであるのか。労働基本権にかかわるものを労働者に与えていない代償機関としていると。じゃあ、やっている間は人事院勧告を尊重すべきではないかと。じゃあ、かわり得るもの。それから労働関係三法にもかかわる話でしょう。これからきちっとそれは詰めていかなければならないと思っています。だから片一方だけ、給与を削るというところだけ、1つだけやればいいという話にはならないでしょう」と答えました。

 「それは当然いろいろな関連で考えられる1つの方策かもしれません」というのは、“トロイの木馬法案”の取り下げを認める可能性を示唆した発言です。政府が国会に閣法撤回要求をするのではなく、衆院内閣委員会が新3党合意にもとづく修正協議で、閣法を修正可決したり、自民党・公明党提出の衆法を可決する方が現実性が高いと考えます。

 輿石さんが柔軟な姿勢を示したことで、民自公3党合意ができ次第、法案は成立するでしょう。それにしても、昨年の通常国会に提出された法案なので、野田内閣発足した時点から民主党政権ののど元に突き刺さった魚の骨、国地方の役人が混ざり合ったトロイの木馬。昨年末、民主党の1期生議員10人ほどが総理公邸に野田佳彦さんをたずねて、この関連法案を成立させるよう迫りました。総理としても、この法案は、のど元に魚の骨が刺さった法案です。このときの10人には実力があり、私も個人的に親しくしている議員も多いのですが、総理に迫るのではなく、魚の骨を取り除く作業をしてほしかった。私は1期生に言論の自由はないという考えをかねて持っていますが、このときも、ひょっとして誰も気付いていないで公邸に押しかけていたら総理は孤独だし、ホントウに淋しいことだなあ。私たち有権者も、住民票所在地や支持政党の枠組みを柔軟に考えて、しっかりと政治家の「選択と集中」をしていくべきです。

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