[写真]参院本会議で答弁する野田佳彦首相、後ろは平田健二議長、首相官邸ホームページから。
【2012年1月27日(金)参、衆・本会議 政府4演説への各党代表質問】
政府4演説を受けて、ねじれ国会の主戦場、参院でも本格論戦のスタートです。
首相の野田佳彦さんが、ねじれ対策の「一体改革」与野党協議のため、福田首相と麻生首相の演説を引用するという「猫だまし」に出ましたが不発。自民党総裁で衆院議員の谷垣禎一さんも、「マニフェストが破綻したので前回の衆院選は無効だからやり直せ」という趣旨に受け取れる、よく分からない「張り手」で、お互いに仕切り直した方が良さそうな気配でした。そこで、きょうの参院自民党の中曽根弘文会長の質問演説に注目しました。
[画像]中曽根弘文・自民党参院議員会長、参議院インターネット審議中継から。
画像にあるように、今国会から会派名が「自由民主党・たちあがれ日本・無所属の会」になりました。参院たちあがれ日本(藤井孝男さん、片山虎之助さん、中山恭子さん)が加わっています。統一会派を解消した単独会派「新党改革(舛添要一さん、荒井広幸さん)」の2人は民主党と同じ投票行動をするケースも出てきそうです。ここに出てくる議員は全員元自民党員です。
〈お詫び倒しの低姿勢〉
中曽根さんは冒頭、野田さんの1月16日の民主党大会での「(ねじれ国会の)参院では、衆院から法案を送って、野党に『この法案が通らないとどうなるか』(迫る)ということも時には示していく」との発言をとらえ、「法案を提出する前から恫喝まがい」「参議院の審議権を否定するもの」「議会制民主主義の根幹にかかわる」「発言の撤回を求める」とパンチを浴びせました。
歴代の自民党参議院議員会長は、このようにいわば「日本国憲法第42条(衆参二院制)」を楯に、あたかも「俺の言うことを聞かないのは憲法違反だ」というのが慣例化しています。例えば、村上正邦会長が、橋本龍太郎総裁を首相官邸に訪ねて、「ペルー日本大使公邸人質事件が解決していないのに、桜を見る会じゃないだろ」と前日の日程について約7分間説教して首相官邸を去っていく姿を見ました。これは青木幹雄さんも物腰がていねいですが同じことだし、会長でなくても、世耕弘成さんや山本一太さんのほとんどの発言もバックに「憲法42条」があります。ほとんどすべての参議院議員は、各種団体あるいは党地方組織という既得権益の用心棒を兼ねています。憲法をバックにした用心棒というのはことのほか強大です。ぜひ世耕さん、一太さん、あるいは林芳正さんらも考えを改めていただきたい。
議場に戻ります。野田さんは低姿勢で、「党大会での発言は特定の法案ではない」「参議院の審議権を否定するものではない」「昨年の震災後の国会のように与野党での活発な法案審議をお願いしたい」「物事を決める国会にするため、衆参両院の機能強化と二院制の意義を高めるものと理解してほしい」といった趣旨を語りました。
そして、中曽根さんの「発言を撤回して欲しい」に応じて、「趣旨を必ずしも理解してもらえなければ不徳の致すところだ」と謝りました。
きょうのポイントとしては野田さんは参院自民党の中曽根さんに3回謝りました。ほかに、YouTube動画で再生が増えている「マニフェストにはルールがあります。書いてあることはやるんです。書いてないことはやらないんです」という野党・民主党幹事長代理時代の街頭演説について謝罪しました。それと元首相の鳩山由紀夫さんの普天間基地移設をめぐる「最低でも県外」など一連の発言を念頭において、「民主党政権として沖縄のみなさまにご迷惑をかけたことをお詫びします」ーーこれに関しては遅きに失したかも知れません。そして、午後の衆本で、公明党のトップバッターとなった井上義久幹事長の質問で八ッ場ダムの本体工事の着工を開始するとした年末の前田武志国交大臣の方針について、「4代の国交大臣が検証した中で、マニフェストと異なる結論に至ったことは真摯に反省し、おわびしたい」と語りました。参院自民党に3回、衆院公明党に1回謝りました。
このほか、身内である輿石東さんの質問で、昨年12月16日の総理記者会見での「原発事故の収束」という表現が、福島第一原発のことだけでなく、福島全体の事故対応の収束を受け止められたことについて、「福島の人を傷つけた」と輿石さんが指摘。これは総理は「工程表のステップ2が終わり発電所の事故そのものは収束したという意味で、周辺地域のみなさんにさらなる避難をお願いすることはなくなったという意味だ。発電所の廃炉にいたるまで最後の最後まで取り組んでいく」と述べ、謝罪はしませんでしたが、説明を追加することで発言を補足、修正しました。
一方、衆本では日本共産党の志位和夫委員長が「政党交付金は憲法違反」「廃止すべきだ」としたのに対して、野田さんは「それは日本共産党の主張であり、そのような認識には立っていない」と突き放しました。衆参の状況でハッキリしたところもでました。
〈3党協議、与野党協議への回帰による熟議の国会を要請〉
ここまでは「お詫び倒し」路線について書きました。もう一つ指摘したいのは「3党協議路線への回帰」を明確な言葉で示したことです。
中曽根さんの質問に戻ります。「昨年8月9日のバラマキ4K見直しに関する3党合意では、平成24年度予算で農業者戸別所得補償と高校無償化(の2K)について、(3党で)政策効果の検証をするとした。その検証結果が十分でないのに、なぜ24年度予算(案)に盛り込んだのか」と質問しました。
これは解釈の違いであり、民主党としては「24年度以降の予算」となっているので、実は、政策効果の検証での3党の合意はしない方が、この任期中の予算計上は続けられるんです。3党合意はそういう意味なんです。野田さんは「子どものための手当はその後協議がなかった」として「けさの閣議で(自民党と公明党政権がつくった)児童手当法の改正案の閣法を閣議決定した」とし、子ども手当の見直しにおける参院での自公の協力を要請しました。
このように「3党協議への回帰」を明確に打ち出しました。
さらに盛りだくさんでした。
野田さんは「年金財源の基礎年金の国庫負担分は自公政権の年金法で決められたものだ」としました。これは福田演説・麻生演説の引用から、「年金法」の規定を根拠にする方向に軌道修正したものだと考えれます。総理はこの日、開議の3時間前から首相公邸で官房副長官や総理補佐官と会っていました。そういう官邸政務三役のチームで軌道修正ができたいたら、さすがだと。
〈農業者戸別所得補償法案を今国会提出へ〉
農業者戸別所得補償法案を今国会に出す用意を示しました。これは今とは逆の衆参ねじれの時に、野党民主党の平野達男さんが提出した参法が参院を通り、衆院に送られています。しかし、政権交代後は、予算書に盛り込むだけで、法案は提出されていません。これについて昨年8月4日の参院農水委員会で鹿野道彦農相は、「ねじれ国会、衆議院と参議院の意思決定が異なる、こういうような状況の中でなかなかこの法制化というふうなものは難しいと、こういうような判断から予算措置でというふうなことの考え方を取らさせていただきました」「軌道に乗せたいというのが私どもの基本的な考え方でありますので、この法制化を目指していきたいと思っておりますが、また現実を考えればそう簡単なものではない」と答弁していました。この答弁相手はJA専務理事出身の自民党参院議員、山田俊男さんですが、すでに山田さんら自民党農林関係議員も「戸別所得補償の制度」は認めていますので、ぜひ山田さんらの意見も入れた良い法律をこしらえてほしい。
〈歳入庁創設へ前向き〉
衆本では「新党きづな」(7人)代表の内山晃さんが質問しました。かつての「民主党年金3兄弟」です。長妻昭さん、山井和則さん、内山晃さんですが、なかなか3男は目立たないので、家を飛び出してしまいました。内山さんは民主党マニフェストで私も期待していた、「歳入庁」(国税庁と旧社会保険庁)について創設を迫り、総理は「(社会保障と税の共通)番号制度の導入」を条件に創設に前向きな答弁をしました。
だいぶ長くなりましたが、ポイントは、やはり3党協議、与野党協議を明確にしたことです。これで第180通常国会も、審議拒否がない、ドンドン法律工場となりそうな気配が出てきました。月曜日には参本で、公明党の山口代表ないし白浜会長が登壇するでしょうから、ここでの対応もチェックしたいところです。また同日夕から第4次補正予算(案)が予算委で審議入り。成立のメドが立っています。
ところで、最後に新聞見出しが立っていない点を指摘します。1月24日召集だったので、冒頭抜き打ち解散があれば2月下旬から3月上旬の特別国会召集も可能でした。しかし、冒頭解散をしなかったことから、3月31日までの本予算成立を考えると、解散は3月下旬以降となることは確実になったと考えれます。衆本では、野田さんが1分前後、咳き込む場面があり、タイヘンだなあと感じました。眼帯はとれましたから、視界は良好になりつつあるように感じました。
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