帝国議会時代は、会期は開会式から数えましたが、国会になってからは召集日から数えることになっており、きょうで第180常会(第180通常国会)は50日目。会期150日のうち、3分の1を迎えました。平成24年度予算案の参院での採決のメドが立っておらず、14年ぶりの暫定予算となりましたが、海外や地方議会ではよくあることですから、国民生活の混乱はないでしょうから、ご安心ください。
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[画像]古川貞二郎さん、参議院インターネット審議中継からキャプチャ。
国会は日切れ法案の処理で大忙し。地元では卒業式で大忙し。きょうは3月23日。第180通常国会は50日目を迎えました。当初会期は150日間ですから、きょうで3分の1。国会議員でそれを認識している人はどのくらいいるでしょうか。成立した法律は5本。補正予算が2本。それと国会同意人事。これだけ。政府は14年ぶりの平成24年度暫定予算(案)の編成を決めて、27日(火)閣議決定、国会提出、30日(金)の成立をめざします。歳入は財務省短期証券(3兆円ほどか?)で、歳出は恩給(6日定例支給日)と地方交付税交付金、生活保護費などになります。6日間ということです。
【参院行政監視委員会 2012年3月15日(月)】
3月15日(月)の参院行政監視委員会。これは参院だけに設けられている常任委員会です。委員長は自民党の福岡高麿さん(参院佐賀、2016年改選)。
古川貞二郎さん(昭和35年厚生省)が「内閣官房と内閣府と総務省のあり方」について極めて貴重な意見を述べましたので、これをご紹介します。その前に前置き。
古川さんは佐賀県出身。佐賀大学文学部に1年通った後、九州大学法学部へ。国家公務員採用試験に一度は落ちました。そのため、長崎県庁へ(佐賀県庁は募集がない年だった)。そして2年後、厚生省に入りました。入省時は経歴をからかわれることもあったそうです。「あのとき私にホニャララと言っていた同期の誰々は最近見かけませんけど、どこに行ったんでしょうね」と語ることもあったようですが、それをバネにして、厚生事務次官に。その前に竹下内閣で首席内閣参事官を務めて、霞が関トップの内閣官房副長官を8年7ヶ月務めました。しめて官邸勤務は15年間。
官房副長官は厚生省、自治省、警察庁の旧内務省系3省から来るのが慣例。古川さんのその前の官邸勤めは、首席内閣参事官として、官房副長官室の向かいの大部屋のトップでした。この大部屋には全府省庁から出向者がいて閣議のときのペーパーなどはすべて事前に用意しています。江田憲司さんや松井孝治さんなどもこの部屋に出勤していたことがあります。その中でも「首席」は官邸内で、内閣官房職員から「首席」「首席」と呼ばれます。官邸の主は「総理」ですから、官邸内には「総理」と呼ばれる人と「首席」と呼ばれる人がいて、語感だけではどちらが偉いか分かりません。宮内庁長官の羽毛田伸吾さん(昭和40年厚生省)の記者会見での物言いが傲慢だと言われることがありますが、彼も官邸で「首席」と呼ばれた経験があります。橋本行革で「首席内閣参事官」は「内閣総務官」に名称が変わりました。橋本行革の見えない成果がここにもあります。
前置きが長くなりましたが、委員会の参考人陳述をご紹介します。
閣議は火曜日の午前8時台、金曜日の午前8時台に行われます。定例は午前10時ですが、国会の都合で前倒しになります。事務次官等会議は月曜日の正午と木曜日の正午から開かれていました。古川さんは、事務次官等会議は、40分から50分間で、官房副長官(事務)が司会をしていて、政治家である官房長官が出てくるのは稀で、一度も出てこなかった官房長官もいたと証言しました。古川さんは「事務次官会議では法案の確認行為をしていた。内閣法制局が事前に閣議にかかる法案が総理の方針と違わないかの事前チェックをしていた。例えば年金法案とか有事法制案とか」としました。私の記憶だと副長官と警察庁長官が出席していたのはハッキリ覚えていますが、確かに内閣法制局長官もいたはずです。終了後には古川副長官が官邸記者会見室で若手記者を中心にブリーフィングしていました。この模様がテレビで流れたことはないように記憶しています。ちなみに旧官邸の地下食堂で開いていて、この部分は取り壊されていて今の首相公邸にも現存しません。
この総理の方針と法案の整合性を内閣法制局がチェックできるというのは目から鱗。鳩山内閣と菅内閣が税制改正法案を政務三役が主導して書いたため、「財源発掘」の名の下に控除を削りすぎて、子ども手当や高校授業料無償化の「控除と手当のバランス」に不整合が生じたことを彷彿とさせます。
古川さんは、「事務次官会議を官房長官が司会すれば強力な政治主導が可能だった」としており、たしかにそう思います。ただ、自由討議のなかで、「時期はできれば閣議の前にやるべきだ」とこだわったところに、官僚主導と政治主導のせめぎ合いを感じます。閣議の後に、週1回だけ金曜日にやっている「各府省連絡会議」については、「詳細を知らない」として評価は避けました。
内閣官房と内閣府と総務省の関係について。まず、古川さんは「総理官邸、内閣官房は総理、官房長官を中心に少数精鋭の組織にすべきだ」としました。古川さんも総理官邸と内閣官房を同義語として使っていることが確認できました。 そして「橋本行革は内閣機能の強化と大括り再編による縦割り行政の打破をめざしたが、なお課題が多い」としました。「総務省は行政分野が異質すぎる3省庁(自治省、郵政省、総務庁)が統合したので、論理的整合性に乏しい」としました。
「内閣府で働くとオールジャパン的な意識に目覚めて出身省庁に帰っていく。(全府省の)一括採用は反対。厚生省でなければ私は長崎県庁に残ったかもしれない」と語りました。「私は昭和35年(1960年)に厚生省に入って以来、年金支給の拡充に全力を挙げてきた。それが昭和57年(1982年)に、(大蔵省主計局が前年度予算額の範囲内で次年度の概算要求をするよう各省庁に義務づけた)シーリングの導入で初めて、年金のコストというものを意識した」としました。これは各省ごとの設置目的があるので、省益や縦割りを否定すべきではないという考えを示したものです。ただ、入省22年後に年金の給付と保険料のコスト意識に目覚めたというのは残念な気もしますが、これは政権与党(自民党)の責任です。
内閣官房について。民主党政権が審議会の増設などで、自民党政権時代に比べて、官邸への通行証発行者が80倍に増えているという報道に私は接しました。この辺の事情も古川さんは知っているのか、「内閣官房にいろいろな人をいれると守秘義務の問題が出てくる。総理中心の精鋭組織にすべきだ。一方、内閣府は(いろいろな人が集まる)知恵の輪だ。総理は内閣と内閣府の双方の長である」として、内閣官房は絞り、内閣府に「知恵の輪」を入れるように提言しました。この内閣官房と内閣府の両輪の回し方について、第45期衆議院の民主党は走りながら考えなければいけません。
内閣府特命担当大臣について。「大臣を置くと、その時点で国民の間で政策が進んでいるような印象を与える」と鋭い指摘。「(実行部隊となる省庁を指揮命令する)法的な根拠が不明確。実際には官庁の指揮命令権限が不明確だ」としました。たしかにそうで、例えば中川正春さんの場合、内閣府男女共同参画局(旧総理府男女共同参画室)がありますが、少子化対策についてはそれに類する「局」はありません。だから「中川少子化相」と呼ばれるのはかわいそうな気がします。
公務員制度。「公益のために官僚になったのであって、天下りがしたくて入ってきた人は一人もいない。最近は結婚が遅くなり、将来の生活設計で再就職をしようとしている。政治家はもっと官僚を信頼して欲しい。公務員は公の仕事をしようとしているが安心して仕事ができる環境が壊れてきていると私も心配している」としました。「ただ、省庁と利益関係のあるところは禁止してもいい」と話しました。
ここまでの古川さんの話を聞いて、読者の方もお気づきでしょうが、古川さんは貴重な証言をしながらも、あくまでも「霞が関トップ」として霞が関の後輩のために話しています。例えば阪神・淡路大震災の官邸対応について、「村山総理はああいう社会党から来た人で、率直に言って心が優しい方だった」と述べました。「心が優しい」は政治の政界ではけなし言葉です。その一方で首席内閣参事官として仕えた竹下登首相を褒めました。
古川さんは「首相補佐官は総理の耳であり、目であるべきで、経済の専門家や外交の専門家を充てるべき。国会議員を充てると、内閣総理大臣補佐官ではなく、内閣補佐官になっている」と批判しています。国会議員だとどうしても自分の議員としての次の選挙が気になり、利益相反が起きざるを得ません。これが民主党なんですね。思いつき、言いっぱなし。
この日の夜、テレビ朝日の番組で民主党衆院議員の山井和則さんが共演者の江田憲司さんに「江田さんも橋本内閣の総理補佐官だったから分かるでしょう」と呼びかけて、驚き、失望しました。首相秘書官(政務)と首相補佐官の違いを知らない。官邸を回す役割はまったく違います。私は、当選4回生で政権交代後に厚労政務官を務めた50歳の山井さんに期待しています。山井さんは長年の厚労から離れて、衆院・議院運営委員会の次席理事をしています。いわば民間企業で言えば、営業部のトップセールスマンを将来の重役をみすえて社長室や経営企画室に異動させているような状態です。
委員会終了後しばらく参議院インターネット審議中継の生放送は続きました。ここで、散会後の古川さんに公明党1年生議員で44歳の秋野公造さんが名刺交換する姿が見られました。旧知と思われるたちあがれ日本(参院会派「自民党・たちあがれ日本)」の中山恭子さん(昭和46年大蔵省)も声をかけました。その一方で、現在与党の民主党参院議員が名刺交換する姿はまったくなく、私は茫然自失の思いがしました。民主党参院議員は自分が官邸入りしたり、官邸にいる総理を支える姿勢がないのでしょう。もともと古川さんと知り合いのように思える議員もいませんでした。できれば、民主党衆院側の1期生の骨のある議員がこの審議に参加すればよかったのにと感じます。
以前、同じ番組で、当選4回生で51歳の長妻昭さんが「政策(マニフェスト)より仕組みですね」と最後にボソッと言って、頼もしく感じました。厚労大臣としてサンドバッグになった悔しさも長妻さんなら返してくれると考えます。政権交代時に長妻さんはネクスト官房副長官でしたが、ネクスト官房副長官は内閣法や国家行政組織法などの官邸回し国会対応の手順表作成に専念すべきだったと考えます。
官邸と国対、官邸と幹事長室、官邸と政調など、まだまだ車軸がつながっていない民主党政権。消費税で長々と会議をする前に、与党の間に勉強しておくことが30代~50代の議員にはまだまだあります。
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