[写真]田中角栄さんと石井一さん(石井一さん公式ホームページから)。
--明治維新によって日本人は初めて近代的な「国家」というものを持った。誰もが「国民」になった。(略)
社会のどういう階層のどういう家の子でも、ある一定の資格をとるために必要な記憶力と根気さえあれば、博士にも、官吏にも、軍人にも、教師にもなり得た。この時代の明るさはこういう楽天主義から来ている--
まだ聞き覚えがありますよね。2009年11・12月、2010年12月、そして震災後の2011年12月に放送されたNHKドラマ「坂の上の雲」(司馬遼太郎原作、野沢尚さんら脚本)の冒頭での渡辺謙さんのナレーションの一節です。
田中角栄さんは日経新聞「私の履歴書」を「一級建築士 田中角栄」と書いたそうです。「衆議院議員」よりも「一級建築士」という国家から与えられた資格に安定性を感じたのでしょうか。
建築士法(案)は1950年(昭和25年)の通常国会(召集は前年末)に第7回国会衆法第15号議案として提出され、成立後は昭和25年法律第137号として昭和天皇が公布しました。そのため、筆頭発議者にあやかって「一級建築士第1号は田中角栄」という噂があります。実際はどうなんでしょうか。
国立国会図書館で調べました。国会議事堂に行くようになって20年ですが、はじめて国会図書館に行きました。心の余裕がたりなかったのかな。
官報を調べてみましたが、建築士合格者の名前までは載っていないんですね。代わりに見つけたのは昭和26年8月27日付の官報で、野田卯一建設大臣の建設省告示第801号に、「建築士法の規定により(略)同等以上の知識及び技能を有する者を次の通り定める」となっています。つまり、この時点で試験を受けなくても、すでに専門学校法の建築科や土木科の検定や、実業学校の教員免許を持っていたりして、4年以上の技能を持つなどしていれば、試験を受ける必要がないというものです。
いろいろ官報を見てみましたが、建築士に合格(認定)された人の番号と名前を告示するということはないようです。
そこで、日本建築士連合会が初めて出した「一級建築士名簿 昭和29年版」を見てみました。この本は今でも所蔵されているとのことですが、館内でも貸し出さず、パソコンを通じた電子データの提供です。
[画像]「一級建築士名簿 昭和29年版」の表紙
序文には「いわば建築士名簿の創刊号であって、(略)幾多不測の不備な箇所があると思われるので広く諸賢の御指導により漸次是正してゆく予定である」と会長さんの名前で書いてあります。
[画像]左は序文、右は奥付。クリックすると大きい画像になります。
名簿なので、調べやすいように五十音順に並べてあり、「た」を見ました。324頁に「田中角栄」の名前があります。建築士番号は「16989」。所属は「衆議院」ではなく、「長岡鉄道(株)」となっています。帰宅後に調べたら、これは建築士法公布後の1950年11月1日に社長として入社した会社。当時赤字続きで電化により起死回生を目指していたようです。「長電」のバス部門を拡充のために、その2、3年前に知り合った国際興業の小佐野賢治さんから大量に車両を分けてもらうなどやり手だったようです。他の2社と合併して1960年「越後交通株式会社」になります。(『田中角栄、ロンググッドバイ』)。その「長岡電鉄」の名前を出して、住所は「東京都新宿区市ヶ谷」と東京の住所を入れておく。戦後復興期の自由主義政治家として、ただ者ではないことを感じます。
一級建築士試験で、日本最大の実績を持つ「日建学院」の学院本部長(株式会社建築資料研究社取締役)を務める馬場圭一さん。私の中学・高校の同級生です。私にとっては多感な10代を一緒に過ごした「馬場っちょ」なんですが、日建学院の創業者の子息であることは卒業後20年経った最近知りました。日建学院は10万人以上の一級建築士を世に送り出しています。
最近では、博士でも、弁護士でも、歯科医師といった国家資格をとっても、生活が困窮している人がいっぱいいます。悲観主義になっているかもしれない。でも、馬場本部長や私の同じく中学高校の同級生である一級建築士はブータン王国政府で働いています。馬場君によると、最近では中国からの建築士の引き合いもあるそうです。
一人で大きくなって、世界に飛び出したい気がしても、私たちはしょせんは「国家」の一員になって初めて一人前。帰る家はこの国家。博士だろうが、官吏だろうが、しょせんは「国家の連中」です。
国立国会図書館も国家があって初めて成り立ちます。聞けば、「一級建築士名簿 昭和29年版」はデジタル情報のサービスですが、貸し出しはしていないものも原本は今でも所蔵してあるそうです。国家を守る。それは何もしないことではなく、攻めることです。攻撃は最大の防御なり。
さあいよいよ、あすのNHK日曜討論国対委員長対決から「社会保障と税の一体改革」の論戦がスタートします。国家を守るためには、社会保障と税の一体改革関連法を修正したうえで第180通常国会で成立させなければいけません。心して、国家を守りましょう。
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