ニュースサイト宮崎信行の国会傍聴記

元日本経済新聞記者の政治ジャーナリスト宮崎信行が衆参両院と提出予定法案を網羅して書いています。業界内で圧倒的ナンバー1。

政府、同じ文面の特例公債法案を提出 公明党が衆本で反対、追い込まれた山口代表

2012年10月29日 23時59分59秒 | 第181臨時国会(2012年10~11月)友情解散

(このエントリーの初投稿日時は2012-10-30 17:57:14)

 政府は2012年10月29日(月)早朝に臨時閣議を開き、「新特例公債法案(財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律案)」(第181国会閣法1号)を決定しました。同日、衆議院に提出しました。これは先の通常国会で、民主党・国民新党の賛成、公明党の反対、自民党の欠席で衆議院で可決(8月28日)した法案(180閣法2号内閣修正)とまったく同じ文面です。

 第180通常国会で、特例公債法案は、

 2月21日、委員会に付託。
 2月29日、安住淳財務大臣が提案理由説明。
 3月2日、質疑入り。
 8月1日、3党合意による年金特例公債(つなぎ公債)の発行に関する規定を追加して、タイトルを改題する内閣修正要求がかかり、安住財務大臣が説明。
 8月3日、参考人から意見を聴取。
 8月24日、野田内閣総理大臣入りでの質疑、質疑終局、討論、採決。
 8月28日、衆本で、民主党・国民新党が賛成、公明党・国民の生活が第一が反対、自民党が欠席のもと、起立多数で可決。
 8月28日、衆議院が参議院に送付。
 9月8日、参・議院運営委員会が付託せず、会期末で審議未了廃案。

 となっています。

 そして、10月29日、3党首会談で野田佳彦代表(総理)が自民党の林芳正さんらがつくった財政健全化責任法案(第177国会で審議未了廃案)を抱き込んだ「
成長戦略と財政健全目標入りの新・特例公債法案」を提案しましたが、安倍晋三・自民党総裁、山口那津男・公明党代表は「ひたすら解散時期の明示を求め、堂々めぐりに終わった」(野田代表の説明)ことによる破談。そして、政府が10月29日召集を決定。という流れです。

 ここで、野田内閣が同じ文面の特例公債法案を決定したのは、8月28日の衆本で反対した公明党に対して、匕首(あいくち)を突きつけたと、私は見ています。ご存じの通り、山口那津男代表、井上義久幹事長と、野田総理、岡田克也副総理、藤村修・内閣官房長官らは、新進党の同僚であり、小沢一郎被害者の会のメンバーです。しかし、当初は融和的な公明党の態度は、ころころと変わり、3党合意後の8月8日の参院採決前に「近いうち解散」を約束させ、さらには、ことし最後の大安吉日の日曜日である「12月9日解散」を迫るなど、野党の分を越えています。

 野田首相が、健全な財政運営と、諸外国との金融関係に配慮し、新特例公債法案を決定したことで、衆院財政金融委員会(五十嵐ふみひこ委員長)での審議はすぐにでも、しめくくり総括質疑に入れるでしょう。そこで、公明党は反対した法案と同じ文面の法案にどう対応するのか。そして、自民党には、財政運営のため、欠席して衆参で可決・成立させるアイディアが浮上している、と報じられています。民主党が「賛成」、自民党が「欠席」、公明党が「反対」となれば、公明党にとって、新進党を解党した小沢一郎氏が代表を務める「国民の生活が第一」と同じ投票行動になります。あるいは、特例公債法案が参議院で否決される事態になっても、公明党は自らの投票行動の整合性を主張することができるのでしょうか。国難の時こそ、政党にとって言行不一致は致命的になりかねません。

 そして、山口さんは「12月9日投票」が仮に実現しなかった場合、組織内でどう、言い訳をするのでしょうか。同床異夢か、異床異夢か。新進党仲間でありながら結婚も離婚もせず、ここまできた公明党。そろそろハッキリとしてほしいと考えています。野田さんの本気度に少し慌てているようにも思えますが、はたしてどうなるか。

 野田さんがすべきこと。それは明日への責任と同時に、今まで一回も総括されていない、新進党解党の歴史的清算をすることです。たとえ、巻き添えで討ち死に(落選)する人がでようと、私は何のためらいもない。新進党解党の歴史的清算のために、衆議院解散はいつか。それは自ずから分かることです。

 9月の有効求人倍率は政権交代後初めて前月比マイナスになりました。消費者支出は2世帯で26万円台に落ち込み、失業率も上がり、鉱工業指数もあり得ないくらい落ち込みました。9月10月の内閣・民主党・自民党支持率の変化は、自民党総裁選挙による露出の増加だけでもなく、内閣改造でもなく、景気低迷が最大の原因だと、私は考えます。震災後不況はこれからが本番です。民主党政権の経済政策はまとまりがなく、不勉強のそしりは免れませんが、誰がやっても厳しい状態に変わりがありません。国難です。国難だからこそ、総理は一歩もたじろいではいけません。

 言行不一致はないか。至誠にもとるなかりしか。試されています。

[特例公債法案(181閣法1号)、財務省ホームページから全文引用はじめ] 

財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律

(趣旨)

第一条

この法律は、最近における国の財政収支が著しく不均衡な状況にあることに鑑み、平成二十四年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、同年度における公債の発行の特例に関する措置を定めるととも
に、平成二十四年度及び平成二十五年度において、基礎年金の国庫負担の追加に伴いこれらの年度において見込まれる費用の財源を確保するため、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(平成二十四年法律第六十八号)の施行により増加する消費税の収入により償還される公債の発行に関する措置を定めるものとする。

(平成二十四年度における特例公債の発行等)
第二条
政府は、財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第四条第一項ただし書の規定及び次条第一項の規定により発行する公債のほか、平成二十四年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行することができる。
2 前項の規定による公債の発行は、平成二十五年六月三十日までの間、行うことができる。この場合において、同年四月一日以後発行される同項の公債に係る収入は、平成二十四年度所属の歳入とする。
3 政府は、第一項の議決を経ようとするときは、同項の公債の償還の計画を国会に提出しなければならない。
4 政府は、第一項の規定により発行した公債については、その速やかな減債に努めるものとする。

(平成二十四年度及び平成二十五年度における年金特例公債の発行等)
第三条
政府は、財政法第四条第一項の規定にかかわらず、平成二十四年度及び平成二十五年度における基礎年金の国庫負担の追加に伴い見込まれる費用(この項の規定により発行する公債に係る平成二十四年度及び平成二十五年度における利子の支払に要する費用を含む。)の財源については、当該各年度の予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行することができる。
2 前項の規定により発行する公債及び当該公債に係る借換国債(特別会計に関する法律(平成十九年法律第二十三号)第四十六条第一項又は第四十七条の規定により起債される借換国債をいい、当該借換国債につきこれらの規定により順次起債される借換国債を含む。次項において同じ。)についての償還及び平成二十六年度以降の利子の支払に要する費用の財源は、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律の施行により増加する消費税の収入をもって充てるものとする。
3 第一項の規定により発行する公債及び当該公債に係る借換国債(次項において「年金特例公債」という。)については、平成四十五年度までの間に償還するものとする。
4 年金特例公債は、特別会計に関する法律第四十二条第二項の規定の適用については、国債とみなさない。

附則
この法律は、公布の日から施行する。

[引用終わり]

[お知らせはじめ]

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野田首相が所信表明演説、「特例公債法案を政治的な駆け引きの材料にしてしまう悪弊をここで断ち切ろう」

2012年10月29日 16時42分07秒 | 第181臨時国会(2012年10~11月)友情解散

[写真]所信表明する野田首相、2012年10月29日(月)、衆議院本会議、首相官邸ホームページから。

 野田佳彦首相は第181臨時国会召集にあたり、所信表明演説をしました。野田第3次改造内閣としては初めてのひな壇で、憲政史上初めて衆議院だけで所信表明演説が行われました。参議院議員は4人の閣僚がひな壇に座りましたが、それ以外の傍聴者はいませんでした。ひな壇には、田中角栄首相の子、田中眞紀子文科相、羽田孜首相の子、羽田雄一郎国交相ら経世会首相の子と、民社党結党メンバーの子である小平忠正・国務大臣国家公安委員長が座りましたが、国会議員の二世はこの3人だけでした。

 野田さんは「私を突き動かしてきたものは、この国の将来を憂える危機感です。今、何とかしなければならない、という切迫した使命感です」と切り出しました。そして、「先の国会で、社会保障・税一体改革の関連法が成立しました。「決断する政治」への断固たる意思を示した画期的な成果です。温もりあふれる社会を取り戻し、次の世代に引き継いでいくための大きな第一歩です。しかし、まだ宿題が残ったままです。「明日(あす)への責任」を果たすために、道半ばの仕事を投げ出すわけにはいきません」と語りました。これは野田さん自らが評価するとおり、通常国会で、予算以外に、社会保障と税の一体改革関連8法のような「大玉」の法律が成立したことは稀。このため、臨時国会の議題はあまり残っていないのですが、大玉を仕上げた分、本来は3月31日までには成立していなければならない特例公債法と、本来は2月25日の数ヶ月前にあたる昨年の臨時国会会期末(12月9日)までに成立させていなければならなかった「1人別枠方式を廃止し定数是正する法律」。この2本はまさに残ったままの宿題です。

 「誰もがやらなければならないことを徒(いたずら)に政局と結び付け、権力闘争に果てしないエネルギーが注がれてしまうような政治をいつまでも繰り返していてよいはずがありません」とした場面では「民主党・無所属クラブ・国民新党」議員席(248人)からひときわ大きな拍手がわきました。

 きょうの演説は、8割方が経済政策だったといえます。本会議場に行く前、私は、デパートの売上高を調べていたのですが、ここ1年以上、お総菜の売り上げは伸び続け、お菓子も8ヶ月プラスとなっています。これは金額ベースですから、値引きをしても総額が増えているわけで、まさに不況期も「デパ地下」強しと感じますが、震災後17ヶ月間一貫してマイナスが続き、今でも前年比2割落ち続けている品目が、一つだけあります。これは「商品券」です。先行き不透明・不安が今の不況の最大の根源であることが分かります。ただ、政府としても、アメリカ大統領の「ニューディール政策」だとか、「月に人類を送る」だとか、そういった目に見える夢を国民に見せる必要があります。

 そういった観点で、衆議院本会議場で演説を聴いていると、残念ながら野田演説にそこまでの具体性はありませんでした。基本的には、各府省からの「短冊方式」にとどまっています。これではダメです。成長戦略がまるで見えません。だいたいが、農林水産業の六次産業化で、金額ベースでのGDP押し上げ効果などあってないようなものでしょう。もう少し、「iPSで再生医療」だけの短冊止まりではなく、「iPSで再生医療、創薬、知的財産、それにかかわる雇用の創出で、経済効果は1兆、10兆、100兆円」とか「ボーイングジェット機の東レのカーボンファイバーなど、日本の石油化学製品は円高知らず」とでも演説すればよかったのです。

 とはいは、散発的に印象に残る文句は複数、ありました。

 「最高裁判所から違憲状態との警告がなされている衆参両院における一票の較差の是正と、定数削減を含む選挙制度改革は、もはや一刻の猶予も許されません。必ず、この国会中に結論を見出してまいります」

 「いかなる政権であっても特例公債なしで今の財政を運営することはできません。既に地方予算などで執行抑制が余儀なくされており、このままでは身近な行政サービスなどが滞って国民生活にも重大な支障が生じ、経済再生の足を引っ張りかねません」

 「ねじれ国会の制約のもとで、政局第一の不毛な党派対立の政治に逆戻りしてしまうのか。それとも、政策本位で論戦を戦わせ、やらなければならないことにきちんと結論を出すことができるのか。その最大の試金石となるのが、特例公債法案です」「毎年の特例公債法案を政治的な駆け引きの材料にしてしまう悪弊をここで断ち切ろうではありませんか」としました。

 政府はきょうの臨時閣議で、「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律案」を決定し、国会に提出したようです。まだ中身を見ていませんが、正面突破するだけでもこの臨時国会の意義はあると考えます。あまり、法律の成立数・成立率を意識する国会ではありません。

 そして、意外と今までなかったテレビ越しのアピールで、「この演説をお茶の間や職場でお聞きいただいている、主権者たる一人ひとりの皆さん」「皆さんが願うのは、党派対立が繰り返され、大局よりも政局ばかりを優先してしまう政治なのでしょうか。それとも、やるべきことを最後までやり抜き、明日(あす)への責任を着実に果たしていく政治なのでしょうか。主権者たる皆さんには、政治の営みを厳しく監視し、明日(あす)への責任を果たす方向へと政治の背中を押してほしいのです」と呼びかけました。

 これは、特例公債法案が成立しなければ、解散に踏み切っても良いのではないかと思います。定数是正法案は8月28日の衆本で可決しているので、最高裁が「違憲状態」と断じるのは確実ですが「選挙無効」に関しては事情判決となることは間違いない、と私は予想しています。そして、長期金利が投機筋などに操作されたら、参議院の緊急集会を開くという手もあります。

 かなり経済政策が入ってきたのは評価しますが、グランドデザインはまったく見えません。商品券が2割マイナスはまだまだ続くでしょうが、せめてお菓子が8ヶ月連続プラスの現状だけは何とか維持しないといけません。かなりギリギリの状態が続きますが、頑張れる人は走らないといけません。

第181臨時国会での野田総理大臣所信表明演説(首相官邸ホームページ)全文引用はじめ] 

一 はじめに ~明日の安心、明日への責任~ 

 第百八十一回国会に当たり、謹んで所信を申し上げます。

 内閣総理大臣を拝命してから一年余。この間、私を突き動かしてきたものは、この国の将来を憂える危機感です。今、何とかしなければならない、という切迫した使命感です。

 東日本大震災が我が国に突き付けた難題。そして、それ以前から我が国が背負ってきた重荷の数々。いずれも、このまま放置すれば、五年後、十年後の将来に取り返しのつかない禍根を残してしまうでしょう。立ち止まっている時間はないのです。

 二年目の厳しい冬を迎える被災地の復興。今も続く原発事故との戦い。事故に起因して再構築が求められるエネルギー・環境政策。不透明感を増す足下の経済情勢と安全保障環境。そして、歴史に類を見ない超少子高齢化社会の到来。全ての課題は複雑に絡み合い、この国の将来を覆っています。

 先の国会で私は、先送りを続ける「決められない政治」から脱却し、「決断する政治」の実現を訴えました。一体、何のための「決断する政治」なのか。今こそ、その原点を見定めなければなりません。

 今日より明日(あした)は必ず良くなる。私は、この国に生を受け、目の前の「今」を懸命に生き抜こうとしている全ての日本人に、そう信じてもらえる社会を作りたいのです。年齢や男女の別、障がいのあるなしなどにかかわらず、どこに住んでいようと、社会の中に自分の「居場所」と「出番」を見出して、ただ一度の人生をたくましく生きていってほしい。子どもも、地方も、働く人も、元気を取り戻してほしいのです。

 「明日(あした)の安心」を生み出したい。私は、雇用を守り、格差を無くし、分厚い中間層に支えられた公正な社会を取り戻したいのです。原発に依存しない、安心できるエネルギー・環境政策を確立したいのです。

 「明日(あす)への責任」を果たしたい。私は、子や孫たち、そして、まだ見ぬ将来世代のために、今を生きる世代としての責任を果たしたいのです。

 「決断する政治」は、今を生きる私たちに「明日(あした)の安心」をもたらし、未来を生きる者たちに向けた「明日(あす)への責任」を果たすために存在しなければなりません。

 先の国会で、社会保障・税一体改革の関連法が成立しました。「決断する政治」への断固たる意思を示した画期的な成果です。温もりあふれる社会を取り戻し、次の世代に引き継いでいくための大きな第一歩です。

 しかし、まだ宿題が残ったままです。「明日(あす)への責任」を果たすために、道半ばの仕事を投げ出すわけにはいきません。

 誰もがやらなければならないことを徒(いたずら)に政局と結び付け、権力闘争に果てしないエネルギーが注がれてしまうような政治をいつまでも繰り返していてよいはずがありません。やみくもに政治空白を作って、政策に停滞をもたらすようなことがあってはなりません。

 将来世代を含む全ての国民を代表する国会議員の皆さん。やるべきことを、きちんとやり抜こうではありませんか。明日(あす)への責任を堂々と果たすため、先の国会で熟議の末に見出した「はじめの一歩」の先に、確かな「次の一歩」を、この国会で力強く踏み出そうではありませんか。

 

二 「明日への責任」を果たすための諸課題

(明日への責任 ~日本経済の再生に道筋を付ける~)
 明日(あす)への責任を果たす。それは、将来不安の連鎖を招くデフレ経済と過度な円高から抜け出すことです。そして、日本経済の潜在力を覚醒させ、先行きに確かな自信を取り戻すことです。

 日本経済の再生に道筋を付け、雇用と暮らしに安心感をもたらすことは、野田内閣が取り組むべき現下の最大の課題です。

 欧州の債務危機の余波や新興国経済の減速によって、世界経済の先行きは決して盤石とは言えません。かつてない規模での貿易赤字など、日本経済の足下にも不安が広がっています。

 今、日本経済が失速してしまっては、雇用や暮らしに直結するだけではなく、将来に向けた改革の推進力までもが失われかねません。切れ目のない経済対策は、改革を断行するための将来投資でもあるのです。

 内閣総理大臣に就任して以降、日本各地で、明日(あす)への挑戦を続ける先駆者や経済の現場を縁の下から支える偉人たちと出会いました。彼らの自信に満ちた笑顔を思い出すとき、私は、日本の潜在力に確信を持つことができます。

 大田区の小さな町工場でミクロン単位の切削を難なく手作業でやり遂げる現代の名工。消費者との絆づくりに農業再生と故郷・群馬の明日(あす)を見出す若き農業者。万国(ばんこく)津(しん)梁(りょう)、世界の架け橋とならんとの使命を自ら体現すべく、沖縄でソフトウェア開発にいそしむ起業家たち。そして、挫折を繰り返しながらも挑戦を続け、感謝と責任感を胸に、知のフロンティアを切り拓いた山中伸弥教授。こうした姿は、私たち日本人の底力を示すほんの一端に過ぎません。

 経済再生を推し進める第一の原動力は、フロンティアの開拓により力強い成長を目指す「日本再生戦略」にあります。これは、疲弊する地域経済の現場で明日(あす)のために戦う人たちへの応援歌でもあります。戦略に描いた道筋を着実にたどっていけるよう、日本再生を担う人材の育成やイノベーションの創出に力を入れるとともに、「グリーン」「ライフ」「農林漁業」の重点三分野と中小企業の活用に、政策資源を重点投入します。

 その先駆けとなる新たな経済対策の策定を指示し、先般、その第一弾をまとめました。新たな成長のエンジンとなるグリーンエネルギー革命。画期的な治療法を待ち望んでいる人たちの心に光を灯(とも)す再生医療の推進。情熱ある若者を担い手として呼び込む農林漁業の六次産業化。今般の経済対策によって、これらを始めとする将来への投資を前倒して実施します。また、金融政策を行う日本銀行とは、更に一層の緊密な連携を図ってまいります。

 国民生活と経済の根幹を支えるエネルギー・環境政策は、大震災後の日本の現実に合わせて再構築しなければなりません。

 東京電力福島第一原発の事故は、これまで進めてきたエネルギー政策の在り方に無数の反省をもたらしました。あたかも事故がなかったかのように原発推進を続けようという姿勢も、国民生活への様々な影響を度外視して即座に原発を無くそうという主張も、明日(あす)への責任を果たすことにはなりません。

 今後のエネルギー・環境政策については、二〇三〇年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入するとした「革新的エネルギー・環境戦略」を踏まえて、遂行してまいります。その際、立地自治体との約束を守り、国際社会と責任ある議論を行うとともに、国民生活への深刻な打撃が生じないよう、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら対処します。

 戦後早くから長年続けられてきた原発推進政策を変えることは、決して容易なことではありません。それでも、困難な課題から、目をそらしたり、逃げたり、あきらめたりするのではなく、原発に依存しない社会の実現に向けて大きく政策を転換し、果敢に挑戦をしていこうとするものです。

 そして、この新たな挑戦は、経済再生を推し進める第二の原動力ともなります。原子力に依存しない社会を一日でも早く実現するためにはもちろんのこと、日本経済が元気を取り戻すためにも、徹底した省エネ社会の実現と、再生可能エネルギーの導入拡大が鍵を握っています。そのためには、市民の主体的な参画も欠かせません。「グリーン政策大綱」を年末までに策定し、経済対策と併せて、日本から世界へと広がるグリーンエネルギー革命を思い切って加速させます。再生可能エネルギーの導入拡大に不可欠な電力系統の強化や安定化にも取り組みます。オールジャパンの力で、共にこの革命を成し遂げようではありませんか。

 世界の歴史の流れの大局を見据えた時、通商国家たる日本がその繁栄を託すべき術は、思慮深い経済外交にあります。経済外交は、中長期的な我が国の立ち位置を示すだけでなく、経済再生の第三の原動力ともなるものです。

 約半世紀ぶりに東京で開催したIMF・世界銀行総会は、戦後も今も、世界と共にあってこそ日本の繁栄があることを再確認する機会でもありました。通商国家の要諦は、国際環境の変化への即応です。アジアの片隅に浮かぶ、老いていく内向きな島国として衰退の道へと向かってしまうのか。それとも、世界の発展の中心にあるアジア太平洋地域の核として、二十一世紀の新たな繁栄の秩序づくりを主導し、活力に満ちた開かれた国を目指すのか。後者の道を果敢に選ばなければ、明日(あす)への責任は果たせません。

 アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現という目標は、既に内外で共有されています。高いレベルの経済連携を引き続き推進し、自由な貿易・投資が各国に豊かさをもたらし、地域の互恵関係を強化する新たなルールづくりを主導します。そのため、国益の確保を大前提として、守るべきものは守りながら、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定と、日中韓FTA、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を同時並行的に推進します。併せて、日豪EPAなどの交渉を推進し、日EUの早期交渉開始を目指します。

 また、アジア太平洋地域の玄関口として大きな潜在力を持つ沖縄については、その自立的な発展を引き続き力強く支援します。

 さらに、エネルギー・環境政策の革新を図る過程において、資源国との関係を強化する資源外交を展開し、エネルギー安全保障に万全を期してまいります。

(明日への責任 ~被災地の復興と福島再生を途切れさせない~)
 明日(あす)への責任を果たす。それは、大震災のもたらした試練を乗り越えるための支援を一刻たりとも滞らせることなく、被災地の復興への歩みを確実に前へ進めることです。

 発災から一年半以上の歳月が流れました。故郷を愛する住民たちの不屈の精神に支えられ、被災地の街の再生に様々な進捗が見られる一方で、政府の取組には、まだまだ不十分な点、至らぬ点があることも事実です。私は、これまで何度も被災地を訪れ、仮設住宅で暮らされている方々の切実な声に接してきました。そうした声にこたえ、厳しい冬を乗り切るため、お風呂に追い炊き機能を付けるなど、寒さへの備えに万全を期してきました。被災された方々のお住まいがなくなるとの懸念にこたえ、仮設住宅の二年の入居期限を延長しましたが、更に災害公営住宅の整備や住宅の高台移転を精力的に進めます。また、被災地からの御要望が特に強い中小企業グループ化補助金の拡充を始めとする予備費の機動的な投入も決めたところです。

 これからも、復興庁が司令塔となり、改善すべきは改善しながら、継続的な人的支援、復興特区、復興交付金などの支援を進めます。がれきを処理し、活力ある故郷を甦(よみがえ)らせるために奮闘する住民と自治体の努力を、企業やNPOなどとも連携しながら、政府一丸となって支えてまいります。

 復興予算の使途に、様々な批判が寄せられています。被災地の復興に最優先で使ってほしいという声に真摯に耳を傾けなければなりません。被災地が真に必要とする予算はしっかりと手当てしつつ、それ以外については、厳しく絞り込んでまいります。

 原発事故との戦いは、今もまだ続いています。私が先日訪問した福島第一原発の構内では、過酷な作業を続ける現場の作業員に向けて、全国から送り届けられた応援と感謝の言葉が、壁を埋め尽くしていました。風評被害を払拭しようとする地元の人たちの懸命な努力にこたえ、被災地の産品を食べて応援しようという動きも広がっています。福島を愛し、福島の再生に格闘する人たちの不屈の精神は、それを支えようとする、心ある全国の人々とつながり、確かに響きあっているのです。

 福島の再生なくして日本の再生なし。政府全体で共有しているこの強い決意が揺らぐことはありません。内外から寄せられる支援や励ましが止むこともありません。事故原発の廃炉に向けた作業を着実に進めるとともに、除染、賠償、インフラの復旧、産業の再建など福島再生を具体化していくために、予備費による福島企業立地補助金の拡充を始めとする最大限の政策を実施してまいります。

 先の大震災は、国全体の防災対策にも大きな警鐘を鳴らしました。これまでに得た教訓を将来発生が懸念されている南海トラフの巨大地震や首都直下地震などの対策に活かしていくことも、私たちに託された明日(あす)への責任です。平素から、大規模自然災害だけでなく、テロやサイバー攻撃なども含め、国民の生命・財産を脅かすような事態への備えを徹底し、常に緊張感を持って危機管理に万全を期します。

(明日への責任 ~国民生活の安心の基盤を固める~)
 明日(あす)への責任を果たす。それは、私たちが日々の生活を送る上で感じている将来への不安を少しでも取り除いていくことです。

 明日(あす)に希望を持てない若者たちが数多くいます。明日(あす)を担う子どもたちを育てる喜びを実感するよりも、その負担に押し潰されそうになっている親たちがいます。貧困や孤独にあえぎ、あるいはその瀬戸際にあって、明日(あした)の生活さえ思い描けない人や、いじめに怯(おび)える子どもたちもいます。

 そうした現実から目をそらさず、社会全体として手を差し伸べなければなりません。一人でも多くの人が、働くことを通じて社会とつながる実感を抱くことができるよう、経済全体の再生やミスマッチの解消を通じて、雇用への安心感を育みます。行政の手が行き届かないところにも社会の温もりを届ける「新しい公共」が社会に根付くための環境整備にも努めます。

 国民生活の将来に不安が残るのは、年金、医療、介護といった社会保障の道行きに依然として不確かさがあるからです。

 チルドレン・ファーストの理念に立脚した子ども・子育て支援については、歴史的な拡充に向けて、既に新たな扉が開かれています。

 公党間の約束である三党合意を基礎に、社会保障の残された課題について更に議論を進めなければなりません。早急に「国民会議」を立ち上げ、年金や高齢者医療など、そのあるべき姿を見定め、社会保障の将来に揺るぎない安心感を示していこうではありませんか。

 消費税率引上げの意義は理解できても、生活への影響に不安を感じるという声も聞こえます。低所得者対策や価格転嫁対策を具体化するとともに、きめ細やかな社会保障や税制の基盤となるマイナンバー制度を実現しなければなりません。また、所得税や相続税の累進構造を高めるなど、税制面から格差是正を推し進めなければなりません。積み残しとなっている関連法案の早期成立も含め、こうした社会保障・税一体改革の残された課題に、一つひとつ道筋を付けていこうではありませんか。

(明日への責任 ~国家の矜持を保ち、平和と安定に力を尽くす~)
 明日(あす)への責任を果たす。それは、国家としての矜持(きょうじ)を保ち、アジア太平洋地域の平和と安定に力を尽くしていくことです。

 我が国をめぐる安全保障環境は、かつてなく厳しさを増していることは間違いありません。領土や主権をめぐる様々な出来事も生じています。我が国の平和と安全を守り、領土・領海を守るという国家としての当然の責務を、国際法に従って、不退転の決意で果たします。先の国連総会において、私は、こうした我が国の立場を明快に申し述べました。憲法の基本理念である平和主義を堅持しながら、今後とも国際社会への発信を続けるとともに、周辺海域の警備体制の強化に努めます。

 同時に、人と人との国境を越える交流は、かつてない深まりを見せています。大局観を持って、中国、韓国、ロシアを始めとする周辺諸国と安定した信頼関係を取り結ぶことは、我が国と地域全体が平和と繁栄を享受するための礎であり、国が果たすべき重大な責務の一つです。

 あくまで基軸となるのは、日米同盟です。その基盤をより強固なものにしなければなりません。そうであればこそ、先般、沖縄で発生した許し難い事件は、日本国民、特に沖縄県民の心を深く傷つける事件であり、決してあってはならないものです。事件・事故の再発防止はもちろん、普天間飛行場の移設を始めとする沖縄の基地負担の軽減に向け、全力で取り組んでいくことを改めて誓います。

 北朝鮮との関係では、四年ぶりとなる政府間協議を再開すべく調整しています。日朝平壌宣言に則って、拉致、核、ミサイルの諸懸案を解決し、不幸な過去を清算して国交正常化を図る方針を堅持しつつ、拉致問題の全面的な解決に全力を尽くします。

 先の国会で述べたとおり、首脳間の信頼関係の強化に努め、周辺諸国との友好・互恵関係の更なる充実に努めてまいります。

(明日への責任 ~政治・行政への信頼回復~)
 明日(あす)への責任を果たす。それは、政治と行政への信頼を取り戻すことです。

 最高裁判所から違憲状態との警告がなされている衆参両院における一票の較差の是正と、定数削減を含む選挙制度改革は、もはや一刻の猶予も許されません。必ず、この国会中に結論を見出してまいります。

 いかなる政権であっても特例公債なしで今の財政を運営することはできません。既に地方予算などで執行抑制が余儀なくされており、このままでは身近な行政サービスなどが滞って国民生活にも重大な支障が生じ、経済再生の足を引っ張りかねません。

 「ねじれ国会」の制約のもとで、「政局」第一の不毛な党派対立の政治に逆戻りしてしまうのか。それとも、政策本位で論戦を戦わせ、やらなければならないことにきちんと結論を出すことができるのか。その最大の試金石となるのが、特例公債法案です。一刻も早い法案の成立を図るとともに、予算の裏付けとなる法案の在り方に関して与野党が胸襟を開いて議論を進め、解決策を見出さなければなりません。毎年の特例公債法案を政治的な駆け引きの材料にしてしまう悪弊をここで断ち切ろうではありませんか。

 行政改革の歩みも止めてはなりません。地域主権改革は、民主党を中心とする政権にとって改革の一丁目一番地です。関係者の意見を踏まえながら、義務付け・枠付けの更なる見直しや出先機関の原則廃止などを引き続き進めます。また、独立行政法人・特別会計改革、国家公務員の総人件費の抑制、公務員制度改革を引き続き推進するとともに、退職給付の官民較差解消を図ります。さらに、復興に向けた国民負担を軽減できるよう日本郵政の株式売却の準備を進めるとともに、郵政三事業の一体的な運営とユニバーサルサービスの義務付けを基本とする郵政事業改革も着実に進めます。

 

三 おわりに ~中庸の姿勢で、「明日への責任」を果たす決意~

 誰しも、十代遡れば、そこには一〇二四人の祖先がいます。私たちは、遠い昔から祖先たちが引き継いできた長い歴史のたすきを受け継ぎ、この国に生を受けました。戦乱や飢饉(きん)の最中にも、明治の変革期や戦後の焼け野原においても、祖先たちが未来の世代を思い、額に汗して努力を重ね、将来への投資を怠らなかったからこそ、今の私たちの平和と繁栄があるのです。

 子や孫たち、そして、十代先のまだ見ぬ未来を生きる世代のために、私たちは何を残していけるのでしょうか。

 夕暮れ時。一日の仕事を終えて仰ぐ夕日の美しさに感動し、汗を流した充足感に包まれて、明日(あした)を生きていく力が再び満ちていく瞬間です。十年先も、百年先も、夕日の美しさに素直に感動できる勤勉な日本人でありたい。社会に温もりがあふれる、平和で豊かな日本を次の世代に引き継いでいきたいのです。

 私たちの目の前には、国論を二分するような、複雑で困難な課題が山積しています。あまりに先行きが不透明で、閉塞感に包まれているが故に、ややもすると、単純明快で分かりやすい解決策にすがりたいという衝動に駆られてしまうかもしれません。しかし、「極論」の先に、真の解決はありません。

 複雑に絡み合った糸を一つひとつ解きほぐし、今と未来、どちらにも誠実であるために、言葉を尽くして、進むべき道を見出していく。共に見出した進むべき道を、一歩一歩、粘り強く、着実に進んでいく。私たちの背負う明日(あす)への責任を果たす道は、中庸を旨として、意見や利害の対立を乗り越えていく先にしか見出せません。

 国会議員の皆さん。まずは、目の前にある課題に向き合わなければなりません。あくまで政策本位で、未来を慮(おもんばか)り、明日(あす)への責任をひたすらに果たしていく政治文化を確立しようではありませんか。

 そして、この演説をお茶の間や職場でお聞きいただいている、主権者たる一人ひとりの皆さん。「今が良ければそれでよい」という発想では、国としての明日(あす)への責任は果たせません。主権者たる皆さんの力が必要です。

 日本経済の再生の先頭に立つのも、グリーンエネルギー革命を担うのも、活力ある故郷の町を甦(よみがえ)らせるのも、皆さんです。国を守る姿勢を貫くのも、日本の将来への危機感を共有して負担を分かち合っていくのも、全て皆さんです。

 皆さんが願うのは、党派対立が繰り返され、大局よりも政局ばかりを優先してしまう政治なのでしょうか。それとも、やるべきことを最後までやり抜き、明日(あす)への責任を着実に果たしていく政治なのでしょうか。主権者たる皆さんには、政治の営みを厳しく監視し、明日(あす)への責任を果たす方向へと政治の背中を押してほしいのです。

 政権交代以降、民主党を中心とする政権のこれまでの取組は、皆さんの大きな期待にこたえる上では未だ道半ばでありますが、目指してきた社会の方向性は、決して間違っていないと私は信じます。それは、今を生きる仲間と「明日(あした)の安心」を分かち合い、これからを生きていく子や孫たちに「明日(あす)への責任」を果たしていくという強い意思です。中間層の厚みを取り戻し、格差のない公正な社会を取り戻していこうとする断固たる姿勢です。

 暮らしや雇用の不安に怯(おび)える人たちは、今この瞬間にも、社会の温もりが届けられるのを待っています。未来を生きる声なき弱者たちは、常に、私たちの責任ある行動を待っています。明日(あした)の安心をもたらし、明日(あす)への責任を果たすのは、今です。

 今こそ、全ての日本人が手を携えて、分厚い中間層に支えられた、温もりあふれる社会の実現に向けて、更なる一歩を踏み出そうではありませんか。あらん限りの底力を発揮し、将来への自信を確かなものへと変えていこうではありませんか。そして、未来に向かって永遠の時間を生きていく将来の国民たちの声なき期待にこたえていこうではありませんか。

 この国会が、明日(あした)の安心をもたらし、明日(あす)への責任を果たす建設的な議論の場となることを強く期待して、私のこの国会に臨んでの所信といたします。

[全文引用おわり]

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「3代目参議院の天皇」に脇雅史大先生が就任 所信表明演説は衆院のみ

2012年10月29日 16時08分16秒 | 第181臨時国会(2012年10~11月)友情解散

[写真]参議院自民党国会対策委員長に再任した「3代目参議院の天皇」脇雅史大先生、2012年10月5日(金)、本人公式ホームページから。

 第181回臨時国会(181臨時会)は2012年(平成24年)10月29日(月)召集されました。

 ところで、NHKニュースおはよう日本で「きょう召集されます」と何度も連呼していましたが、召集詔書には「29日、東京に臨時会を召集する」とだけ書いてあり、衆議院・参議院規則第1条に「午前10時に参集する」と書いてあるので、朝の時点ではすでに「召集された」のではないでしょうか。虎ノ門事件の反省から自動的に会期がカウントされるようなしくみなので、ぜひ、NHKも前例踏襲ではなく、確認していただきたく思います。

 会期は、衆議院本会議で採決され、2012年(平成24年)11月30日(金)までの33日間と決まりました。

 先の通常国会で参議院で審議未了廃案になっている「特例公債法案」と「1人別枠方式を廃止し定数是正する法案」(ともに今国会では未提出)の成立が焦点になります。ただ、この2法案は、「日切れ指定」で自動的に成立させておいてしかるべき法案であり、「積み残し宿題処理国会」となりそうな気配です。

 きょうの衆議院本会議から、議事進行係が早川久美子さん(東京17区比例復活)になりました。前任の鷲尾英一郎さんも威厳があって良かったのですが、農水政務官に昇格したので、短い期間で交代したようです。今国会にしろ、次の通常国会にしろ、解散当日の本会議では、内閣不信任案が緊急上程されるパターンが大半なので、歴史的な場面で早川さんが登場することになりそうです。


[画像]議事進行係をつとめる早川久美子さん、2012年10月29日、衆議院本会議、衆議院インターネット審議中継からキャプチャ。

 参議院は8月29日の本会議で野田首相と民自公3党合意を問責する決議を可決していることから、脇雅史・参議院自民党国会対策委員長、鶴保庸介・参議院議院運営委員長(自民党)らが所信表明演説を拒否しました。なお、午前10時からの参議院本会議で、議運委員長は岩城光英さんに交代しました。ジェントルマンの岩城なので、休憩後から急に方針が変わるのではないかと期待しましたが、休憩のまま所信表明なしに散会しそうです。

 衆議院先例484は「会期の始めに内閣総理大臣が施政方針に関して、外務大臣が外交に関して、財務大臣が財政に関して、経済財政政策担当大臣が経済に関して演説する」としています。「臨時会においては、開会式の後に、内閣総理大臣が所信に関して演説するのが例である」としていますが、少なくとも過去20回以上の臨時国会で所信表明演説はされていません。衆議院だけで所信表明演説があり、もう一つの院(参議院、貴族院)でないのは、憲政史上初めてだそうです。

 ただ、国民は、所信表明演説が衆・本会議で行われ、その十数分後に参・本会議でも同じ演説原稿を首相が読み上げていたという事実をどれだけ知っているのか疑問に思います。というのは、NHKの中継はもともと衆本だけだからです。ここは有権者としてメディアを通して国会を知る間接民主制において、非常に大きな本質的な課題があるところです。衆本と参本を両方NHKが中継すれば、NHKや新聞投稿などは「時間のムダ」という意見であふれかえるでしょう。しかし、通常国会冒頭の政府4演説、臨時国会冒頭の所信表明演説の国会中継(ただし衆本だけ)の後には、「首相が下を見て棒読み」、「野次がひどい」という2つの意見が多いように思います。前者について言えば、施政方針・所信表明演説は閣議決定文書なので、その通り朗読するのが筋です。後者について言えば、衆本の最後に、議事進行係の「国務大臣の演説に対する質疑は延期し、来る○○日午後一時から本会議を開きこれを行うこととし、本日はこれにて散会されることを望みます」という動議が可決しており、この日は野党はひと言も演壇に上がる機会がありません。ですから、与党だけが発言している本会議に野党議員が不規則発言をしたとしても、一定の秩序の中に収まっていれば、「野次がひどい」との批判は当たらない。私はそう考えます。

 小泉純一郎首相が衆参で同じ演説をするのはムダだから一本化したらいい、との発言をしたことがかつてあったと思います。今回は所信表明演説とそれに対する代表質問はボイコットしながら、参議院予算委員会での集中審議はするようですから、参議院自民党の戦術はシッチャカメッチャカで訳が分かりません。村上正邦さん、青木幹雄さんにつぐ「三代目参議院の天皇」脇雅史さんは、本人の活動記録の8月28日に 「野田佳彦内閣総理大臣問責決議案提出(8月29日、本会議で可決)」とするpdf文書を挙げていますが、これは、実際に参本で可決されたものとは違います。現時点でも議事録ができあがっていないのですが、実際に可決されたのは「野田首相を問責し、民自公3党合意を問責する決議」です。(参照谷垣さんが落ちた問責落とし穴にちらつく小沢一郎氏の影 やはり可決したのは14号議案だった 参議運議事録)。脇さんは平成研所属のようで、経世会の系譜を継ぐ「自民党にいるお兄さん」のように感じますが、これ以上意地を張っても、小沢氏のぬかるみにはまるだけです。

 
[写真]お花が似合う、脇雅史大先生。本人公式ホームページから。一部トリミングさせていただきました。

 えてして、小泉首相が求めた国会改革の一つが先例として残った格好になります。英議会のエリザベス女王の施政方針演説(内閣執筆)や、米国議会の大統領教書演説や両院合同になっていますので、参院議員が衆院本会議場に集まる体裁でもいいのかもしれません。きょうの衆本では、参院議員の傍聴者は一人もいませんでした。今の参院には能動的な議員は少なく、脇さんのような能力のある人が出てくると、あっという間に会長や幹事長をおしのけて、参院自民党を仕切るようなことになります。昨年秋の臨時国会では、人事の内紛で新しく就任した溝手顕正・参議院自民党幹事長が、第3次補正予算案提出に伴う安住淳財務大臣の財政演説に対する代表質問に登板し、「総額11兆円の補正のうち、基礎年金国庫負担分の穴埋め2・6兆円の歳出がもっとも大きいのは復興予算とはいえない」という趣旨の演説をしました。これは、最後の埋蔵金となった国鉄を継承した法人からの溜まり金の国庫返納分などの税外収入を1次補正で復旧財源に回したことへの穴埋めで、とくに公明党が強く主張していた増額補正だったのですが、溝手さんはまるっきり見当違いな演説をしました。1次補正の時点で、執行部でなかったために経緯を知らず当事者意識に欠ける結果となりました。そのため、脇国対委員長の主導権が高まったのだろうと考えます。3次補正については、衆本で谷垣禎一・自民党総裁も「全国防災対策費とは、公共事業ではないのか」という趣旨の演説をしています。その一方で現場ベースでは復興基本法に全国防災が書き込まれたわけで、自民党が衆参、執行部と執行部外議員がバラバラになっていることが浮き彫りになります。もはや政党とは言えない状況になりつつあると言えそうです。


[写真]ステキなクールビズを着こなし、国土強靭化法案について記者会見する脇雅史大先生、本人公式ホームページから。

 さて、第181臨時国会ですが、正直、あまり重要な法案があるようには、私には思えません。ただ、第45期衆議院では最後の秋の臨時国会ですし、波乱要因はいろいろとあります。ていねいにしっかりと見ていきたいと思います。

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