EN COUVERTURE
Leonard de Vinci (1452-1519)
Saint Jean Baptiste
Vers 1508-1519
huifle sur bois, 69 x 57 cm
Coll. musee du Louvre
レオナルド・ダ・ヴィンチ
『洗礼者聖ヨハネ』
Grande Galerie
表紙以下のイメージは同誌所収の紹介論説から引用。
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新着のルーヴル 美術館の月報 Grande Galerie, Le journal du Louvre (dec 2016-Janv/Fenv 2017)を眺めていると、興味深い記事に出会った。下掲の写真から、なんのことかお分かりでしょうか。
なんとなく事務室のような空間に大きなパネルが置かれている。よくみると、その一枚は、あのジョルジュ・ド・ラトゥールの「クラブのエースを持ついかさま師」のコピーではないか。さらに読んでみると、どうやらルーヴル美術館とパリ市内の病院の協定で、の作品を様々に活用することで、病院の雰囲気、サービス環境、さらには治療効果の改善にも寄与しようとする試みのようだ。真作を展示することは困難があるとはいえ、3D技術なども活用して作品の面白さを見る人に提示しようと試みている。
このラトゥールの作品なども、痛み、恐れ、憂鬱、退屈などの病院にありがちな雰囲気を変化させ、患者に好奇心を抱かせ、自ら考え、回復への自立支援に役立てようとの視点から選び抜かれた主題といえる。フランスではあまりによく知られた作品ではあるが、実際にゆっくりと鑑賞した人はすくないだろう。
この作品は、17世紀の世俗画の範疇に入るが、見方によって現代に通じる多くの含意を読み取ることができる。戦争、飢餓、悪疫など、歴史的にも稀な危機の時代だった。その中で人間はいかに生きるべきか。
病院に展示されるルーヴル美術館の作品は、これに限らず、プロジェクトを企画した者が考え抜いたものだ。なかにはミロのヴィーナス像まで入っていて、病院の中庭に置かれている。思いがけない所で、予想もしなかった美しい作品を目にした関係者は、それぞれの立場で多くのことを考えるだろう。
美術館と病院の連携というのは、きわめてユニークだ。心身ともに不安や苦痛を抱えた患者も、診療や待機の合間に、世界最高レヴェルの絵画作品のイメージやヴィデオ解説あるいは様々に工夫された展示に接しながら、落ち着いた時を過ごすことができる。
病院の待合室は一般に雑然として、時に陰鬱な空気が漂っている。日本の病院などでも、壁に絵画作品を飾ったり、グランドピアノを置いて、日に何回かピアニストによる演奏を聞かせたりしているところもあるが、その数は少ない。これらの斬新な試みを目や耳にすることで、芸術が医療という行為やその過程に及ぼす効果を改めて考えさせられる。いつか、こうした実験の評価を知りたいと思う。