時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

8Kでも解けない《夜警》の謎

2023年09月23日 | レンブラントの部屋



“実物大”で迫る!レンブラント「夜警」だが

9月10日のNHK「日曜美術館」がオランダの至宝レンブラントの《夜警》を取り上げていた。決して国外に出ることはない名画《夜警》の実物大の作品を8Kで撮影することが特別に許されたとのこと。

撮影したスクリーンをスタジオで見ることができる新発見と銘打っているが、語られている事実については、これまでに明らかにされていることが多く、実際のところほとんど新味を感じなかった。ただ精彩画像で映し出された作品の各部については、それぞれ記憶を新たにすることはあった。

この作品について筆者は、かつてオランダ、ティンバーゲン研究所のフェローとしてロッテルダムに滞在中、週末などにアムステルダムへ行き、何度か観ることが出来た。そしてたちまち、レンブラントの作品の迫力に圧倒され、同じ17世紀の画家ラ・トゥールとは別の意味でフリークとなってしまった。その時の記憶も頼りに、メモ代わりに、このブログにも一連の関連記事を掲載している。《夜警》関連のメモのタイトルだけを参考までに再掲しておく

この作品、観るたびに大きな感動を受け、魅せられてしまう。この一大作品がオランダを出る機会はないだろうということも一目で分かる。レンブラントが当時流行していた集団肖像画の世界へ、切り込み、革新を図ったのが、この作品なのだという印象が強く伝わってくる。当時の肖像画ジャンルにおける一大革命であることは論を待たない。

集団肖像画というスタイルが最初に試みられた当時は、それ自体が肖像画のジャンルでは革新的であったが、次第にマンネリ化していった。レンブラントはそこにドラマ性を投入し、新たな世界を切り拓いた。画家がこの作品に投入した才知、思考、技能の粋が存分に発揮されている。

そのための発火点ともいうべき役割を担ったのが、隊員でもない謎の少女なのだろう。レンブラントの亡くなった愛妻サスキアの面影を重ねる人もいるが、筆者はサスキアではないと考える。少女の顔には強い不安、憂いのような表情が見てとれる。

隊員の中に突如紛れ込んだような少女の憂い顔の根源はなんだろうか。火縄銃手組合の将来に何かその原因があるのだろうか。グリーナウエイのサスペンス小説(上掲)と映画化など、いくつかの推測はあるが、いずれも決定的なものではない。8Kの精彩画面をもってしても解き明かせない謎が依然として残っている。その回答はもしかすると、額縁の外の社会にあるのかもしれない。


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