時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

恐慌前夜に考える(3)

2008年10月22日 | グローバル化の断面

1930年代大不況の光景から
ブレッドライン(給食)に並ぶ人々

 アメリカ発の金融危機は、瞬く間に中国にも達した。北京五輪の華やかさはどこへやらの光景がいたるところで展開している。
ブログで予想した通りでもある。世界の状況を俯瞰すると、事態はすでに「恐慌」といってもよいのかもしれない。1930年代の大恐慌と今回の「グローバル危機」の類似点、相違点はさまざまに指摘できるが、とりわけ印象的なことは、その浸透・拡大の速さだ。危機は驚くほどの速度で、ヨーロッパ、アジアなど地球全域へ伝わった。背後に、IT技術の発達による情報の伝播の早さがあることはいうまでもない。

 1930年代大恐慌当時、フランクリン・ローズヴェルトが大統領に選出されたのは、1932年11月であった。実際に大統領就任式に臨んだのは翌年の3月である。ローズヴェルトの前の大統領は、アメリカから貧困が消える日が近いことをスローガンに掲げたフーヴァーであったが、皮肉なことに就任1年後に未曾有の恐慌に見舞われることになった。フーヴァ政権の対恐慌政策は実効が上がらなかった。なんとなく、ブッシュ政権と似たところがある。今回の金融危機も、図らずも大統領選と重なっている。

 フーヴァーの後を次いだフランクリン・D・ロースヴェルトは、1932年の大統領候補指名受託の演説で、アメリカ国民の「ニューディール」(新たな再出発)という表現を使い、これが彼の恐慌に対する政策スローガンとなった。選挙戦中にも使われたが、それがいかなるものであるかについては、明瞭な説明はされていなかった。その後、周囲の政策顧問、経済学者などの考えを通して、次第に輪郭が浮かんできた。

 注目すべきことは、1932年11月の大統領選出から翌年3月の就任式までの間、ほとんど経済政策面ではなにもなされることなく推移できたことである。恐慌はこの間も進行していた。この点に関連して、今回の危機で、ポウルソン財務長官は「金融システムは2009年まで持たない」と緊迫した発言をしている。今回の危機の進行速度がいかに速いかを示している。(実際、1929年のウオール街株式暴落後、アメリカ政府が一連の施策を導入するまで、3年近くを要している。)


 1933年3月4日の大統領就任演説で、ローズヴェルトは恐慌が悪化し、銀行倒産が相次ぎ、取り付け騒ぎが起きている状況を前に、「私たちが恐れねばならないことはただひとつ、恐れること自体です」と述べ、国民の不安を取り除こうとした。さらに2日後には議会が特別会期を開催するまでの4日間、全国の銀行を閉店とすることを決めた。「バンク・ホリデー」という名で、彼は国民の不安を和らげたのだ。後にアメリカで過ごした時に、大恐慌を経験した世代の人が、「明日はバンク・ホリデーだから」という時には、特別の意味が込められていることを知った。ローズヴェルトは特別議会が開かれるや、「銀行特別救済法」案を提出、たちまち可決させてしまった。国民の大統領への信頼は急速に高まった。

 さて、今回、中国へも波及した金融危機は、アメリカ市場向けの製品を生産する企業などを中心に、急速に浸透している。労働集約型産業が多い広東省東莞市などに波及、多数の工場閉鎖を引き起こしている。最近の原材料高、人民元高、賃金上昇などが重なり、経営が成り立たなくなったのだ。友人の企業の工場もあるが、対応に大わらわであることは間違いない。近々工場を見せてもらうことになっていたのだが。株も不動産も下降し、消費者心理も急速に冷え込んでいる。中国経済は想定外の成長率の減速ともいわれるが、大不況の経験を考えれば、当然ありうる事態だった。日本経済へもその影響は及ぶ。

 金融危機といっても、金融界の範囲だけで終息するわけではない。信用収縮の過程を通して、実体経済へと不況は波及する。いくら政策的対応がなされても、それが危機拡大に抑止的に働くまでには、かなり長い時間を必要とする。重篤な病状が投薬などの措置によって改善の時を迎えるまでに、一定時間が必要なように。

 実体経済がひとたび不況過程に入り、最終需要の減退、在庫調整、生産調整などのプロセスを経ながら、派生需要である雇用調整の次元にまで及ぶと、元の正常な水準に復元するまでには、それなりの時間が必要だ。今回のようなグローバルな危機となると、もはやV字型回復は予想しがたい。
世界の株式市場が不安定な動きを続けているのは、治療の様子を見極めようとしているのだが、どうも即効性はないらしいと見ているようだ。 フランクリン・ローズヴェルト大統領が就任式、そして離任の時の言葉が思い出される。

「われわれが恐れるべき唯一のことは恐れそれ自体だ」 
"The only thing we have to fear is fear itself."

「強く、活発な信念を持って前へ進もう」
"Move forward with a strong and active faith."

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