時は1981年春。
その当時の日本車は、まだFRが主流で、FF車はスバルとホンダの一連のクルマ、トヨタのターセル/コルサ、日産パルサー、マツダファミリア、三菱ミラージュ、ダイハツシャレードといったところくらいしかなかった。
そんな時代、日産は世界戦略車としてバイオレット/オースター/スタンザをフルモデルチェンジでFF化させ、バイオレット・リベルタ/オースターJX/スタンザFXの3兄弟として華々しくデビューさせたのだった。
セダンがあるのは3兄弟共通だが、ラグジュアリーなバイオレット・リベルタとスタンザFXには5ドア。
スポーティーなオースターJXには3ドアがそれぞれ設定されていた。
今回は、その中のスタンザFXにスポットライトを当ててみよう。
今見ると、フェンダーミラーに違和感を感じるが、このセダンの全体のスタイルは端整で悪くない。
その一方、インパネにはあまりデザインが感じられないというか、どことなく安っぽく、スイッチ類の配置が雑然とし、やっつけ仕事的に思える。
シートの表皮や、デザインは、当時の日本人の考える「高級」な感じ。
カラーがワインレッドでなくてベージュなので、やや救われるが・・・
そして、この5ドア。ウエストラインが低く、窓面積の大きい全体の形には、結構好感が持てる。
だが、そのインパネは、やはり商用車然とした、あまりいただけないモノであった。
シートの表皮のデザインも、新しさを出そうと試みてはいるのだが、なにか未消化な感じは否めない。
「リヤコーナーピロー」っていうのも、なにやら意味不明なカルトな装備といえよう。
日産車では、セドリックにも設定があったようですネ。
だが、さすがに「先進のFF」。
スペースユーティリティーには優れていた。
ただし、トランクやバックドアがバンパーレベルから開かないのは惜しい。
このクルマ、たしかに「志」は高かったように思う。
だが、最後のツメが甘かった。
このクルマが出た当時、私は中学生だったが、カタログを貰う際に実車を見て、このクルマのインテリア・インパネ・シートのデザイン・大雑把な格子状のグリル・テールランプ・メッキモールの使い方など、そういった部分に非常に安っぽさを感じた。
それは、当時のアコードと比べると、まさに天と地ほどの差があると思った。
そして、その価格である。
当時のスタンザFXセダン1800SGLの価格は134万円。
アコード・サルーン1800EXは132万円。
名車の誉れ高い「910」ブルーバードセダン1800SSSも同じく132万円。
この3車の価格は全て5MT。さて、アナタは何を選びますか?
このクルマ、ホントにケレン味のない、いいスタイルをしている。
ディテールを改善し、これを磨きあげればよかったのに。
きっと、関口宏氏も、そう思っていることであろう。
だが、あろうことか、2年後の’83年。
このクルマの販売の失敗が「丸くて小さく見えるスタイル」にあると勘違いした日産は、このクルマの一番の美点だった顔にメスを入れてしまう。
そして日本では売れなかった5ドアを引っ込めて、オースターに設定されていた3ドアを投入し、その存在をますます曖昧にしてしまうのだ。
なんともチグハグで、全てが後手に回り、この頃が日産の一番の混迷期だったと思う。
・・・マニアの方なら、「スタンザ・リゾート」というモデルをご存知であろう。
ホントはそのクルマにも触れたかったのだが、残念ながら、そのカタログは我が家にはない。
そこで、それについては「徳小寺無恒」氏のコラムをご参照ください。