私の担当セールスレディさんより、最近発売された「インプレッサWRX STI A-Line」の試乗車が、北海道スバルの本社にあるとの連絡を受けた。私とクルマ好きの尾車氏は、嬉々としてそこへと向かった。
試乗コースについては、任意で選ぶことを許された幸せな私たち取材班。私がレガシィ2.0i購入のきっかけとなった試乗コースを、同じように走らせてもらった。
エンジンをかけても、アイドリングでは振動も無く、車内は平穏そのもの。300psもあるクルマであることを、まったく感じさせない。
走り出してみても、他のスバル車の例に違わず、ジェントルな乗り心地である。私の2.0iと較べると、若干その脚は固めのセッティングかもしれない。センターにビシッ!と据わったステアリングフィールや、剛性感と重厚感に溢れたこのクルマの振る舞いは、やはりドイツ車的な趣である。
同乗したセールスレディ嬢によると、「クルマ好きのお客様で、1psあたり1万円が適正なクルマの価値だっておっしゃる方がいるんですヨ」とのこと。そういった意味では、ブレンボのブレーキやアルカンターラのシートを省略した結果とはいえ、税抜き300万円のこのクルマの価格は、きわめて適正なのかもしれない。だが、その法則からいけば、私のレガシィ2.0iは140万円で売られていなければいけないことになるのだが・・・
重心の低い水平対向エンジンを積むがゆえか、このクルマは曲率の緩い長い坂道を、路面に吸い付くように、極めて安心感高く走る。スロットルを軽く踏んでいるつもりでも、気が付いたら相当な速度に達していることが、スバルのターボ車に共通の凄いところでもあり、恐ろしいところでもある。このクルマにフルスロットルを与えていたら、免許証が何枚あっても足りない。
MTオンリーだったインプレッサSTIに、ようやく与えられた5AT。VWのDSGを筆頭に、近年の2ペダル車のトランスミッションの進化には目を見張るものがあるが、私見ではこの5ATでも、まったく痛痒を感じることはないし、これで十分だとも思う。奥さんがATしか運転できないという、走り屋のスバリストのお父さんにとって、この「A-Line」の追加は朗報であろう。
また、感銘してしまうのが、「2.0LターボでMTのSTI」に対し、「ATのA-Lineには2.5Lターボ」という風に、わざわざエンジンを積み替えてくるスバルのエンジニアリング魂である。コスト重視の他メーカーならば、さほど台数が見込まれるとも思えないこの手のクルマに、そんな手間をかけることはしないだろう。現行レガシィのカタログを見るとわかるが、スバルはエンジンのスペックに応じて、細かくトランスミッションのギア比を変えている。ここら辺の高コストなスバルの体質が、ぐっと私のハートを鷲摑みにして離さない。
この「A-Line」。脚回りにしろ、エンジンのパワーの出方にしろ、粗っぽいところは微塵も無く、非常に緻密な機械を動かしているというフィーリングに溢れている。この不況の折に、こういったクルマをリリースしてくれるスバルというメーカーが存在してくれていることに、歓びを感じようではないか。