ここ数年のスズキは、なにかに開眼したかのように、私のようなクルマ好きのココロに響くクルマをリリースしてくれる。
この「イグニス」も、そんなクルマのうちの、ひとつである。
尾車氏と私は、カタログ収集目的で、スズキのお店に向かった。
そして、セールスマン氏より「よかったら試乗してみませんか?」とのお言葉をいただき、照れたフリをしながらも嬉々として、試乗させていただいたのである。
試乗車は、4WDの「HYBIRID MX」(セイフティパッケージ装着車:税込車両本体価格173万5560円)だった。
コンパクトクロスオーバーという立ち位置の、このクルマ。
なにか厚いメガネの歯科技工士のような、目ヂカラのあるファニーフェイスが、印象的だ。
ちなみにこのクルマも、かつてのスプラッシュ同様、ハンガリーからの帰国子女であるとのこと。
自発光式のメーターパネルは悪くないのだが、インパネ全体の構成部品は指でつつくと「コンコン」と響く、プラスティッキーな風合い。
だが、思いきった色使いで楽しさを演出しており、それはかつてのラテン車のようである。
ステアリングが革巻でなかったのは、手のひらに緊張の汗をかきやすい私としては、残念なポイントだった。
平均燃費計の数値はなんと16.3km/Lを示しており、エンジンを回してちょこちょこと走らされるパターンの多い「試乗車」にしては、ずいぶん優秀である。
あくまでも想像だが、このイグニスの実用燃費は、かなりイイような予感がする。
そして走らせてみると、このクルマ全体が醸し出す「しっかり感」に、驚愕する。
やや人工的な味付けではあるものの、しっかりとセンターに据わった、ステアリング。
シートの座り心地も、乗り心地も、やや固めながら、剛性感の高いボディがそれを鷹揚に受け止めてしまう。
加えて、直列4気筒1.2リッターのマイルドハイブリッドアシスト付きエンジンは、大人3名が乗車したこのクルマを、痛痒なく軽快に走らせてくれた。
このクルマを運転していると、なにか欧州Bセグメントのクルマを走らせているかのような、錯覚にとらわれる。
ただし、このクルマも一応「ハイブリッド」ではあるものの、「アイドリングストップ時以外の静粛性」には、あまり期待しない方がいいかもしれない。
空調コントロールパネルのロジックは私好みで、ブラインド操作もイージーだ。
ココをタッチパネルにしなかったことは、大いに評価したい。
・・・というか、空調コントロールをタッチパネルにしているクルマを最近ちらほら見かけるが、それは大間違いであると、気弱に主張したい。
後部座席のレッグルーム及びヘッドルームのスペースも、充分。
このクルマは一家4人のファミリーカーとして、大きな不満なく使えることでありましょう。
その感性に響くドライブフィールは、運転好きのお父さんに、オススメだ。
スズキのニューカマー、イグニス。
運転して、実に愉しいクルマだった。
昨今珍しく、全幅が1660mmに抑えられている点にも、「コンパクトカーの本分を守る」といった気概というか、「ポリシ」が感じられる。
横から見ると、キックアップしたウインドウグラフィックスに「アルト」あたりとの血縁を強く感じるが、セールスマン氏によると、「ドアパネル等は共有ではない」とのことであった。
そして、そのアルト同様に、このクルマに注文を付けるとすれば・・・
「ウエストラインがキックアップした部分の後席ドアの内張り」が、省略されているのが、あまり美しくない。
コストダウンのためなのか、軽量化のためなのか、それともその両方なのか・・・
ここは塞いでほしいと、心から、誠実に、お願いしたい。