『禁断領域:イックンジュッキの棲む森』、美原さつき、電子版:2023、宝島社
主人公の女性は公立大学の霊長類学を学ぶ院生で、コンゴ民主共和国における地下資源開発に関連する道路建設のためのアメリカの大企業の環境アセスメント調査に指導教官らとともに出かけることになった。ボノボが生息する可能性のあるサバンナに道路をとうすという。大企業のチーム(多機能なドローンなどを駆使する)と霊長類研究者および、現地の野生動物管理者、現地の人々が、そこ新型の霊長類と遭遇する。しかも彼女の見立てでは、大臼歯の構造や指間の皮膜から、ヒト上科ではなくオナガザル上科の植物食のサルが大型化したものという。彼らにとっての生存の敵である調査チームをおそう。九死に一生を得て生き延びることができたのは、ヒトの感情との近さの要素を進化史上持っているだろうという予想があたったから。
地球上の多くの種が人類の開発圧力によって生存の危機にある。昨今では生物多様性の維持を目的とした保全が叫ばれるものの、それは、置かれた状況(多くの場合は、人類とのどのような関わりがあるかによって)様々な様態を示すことになる。本作品のポイントは、著者の経歴もあって、霊長類学、生態学、文化人類学の最近の情報をふまえて作品が構成されているようだ。
マイケル・クライトンの作品を続けて読んだのは、著者が憧れの作家と読んでいるということだから。くわえて、新種の霊長類が登場するなど、ストーリーが近似しているから。
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『失われた黄金都市』(電子版:2014、原題:Congo、原作出版:1980、ハヤカワ)、マイケル・クライトン
手話を話す7歳のメスゴリラ・エイミーと研究者のエリオット、資源探査会社のロス、案内人のモンローが頭部コンゴのヴィルンガ山地におけるブルー・ダイヤモンド探査の物語だが、古代都市「ジンジ」で護衛として創り出された新種の灰色ゴリラ(マウンテンゴリラより小型で、手話と囁きのような言語を使う。「ジンジ」の住民が原題の遺伝学の知識なく作り出した仮説をエリオットは立てた)や霊長類の生態や言語(エイミーは灰色ゴリラの言語を理解できる。手話はアメスランを学んでいるのでコミュニケーションできない)、コンピュータ関連産業、ダイヤモンド半導体、軍事に関連する国際政治、火山活動などが様々絡み合う物語。
『禁断領域』で一行が難を逃れるきっかけとなったのは、霊長類に共通する感情領域に接点があったからであったのに対し、『黄金都市』の場合は、霊長類の言語使用という接点。
邦題は、「黄金都市」だが、黄金の話はストーリーの中に出てこない。ダイヤモンドなのだ。