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40字で多面体を言いきる

2013年07月08日 | 読書
 『上杉隆の40字で答えなさい』(上杉隆 大和書房)

 こんな副題が小さく表紙に書かれている。

 きわめて非教科書的な「政治と社会の教科書」


 政治やメディアに関するフリージャナリストとして有名な著者、結構過激なことを書いているなあという印象を持っていた。しかし雑誌記事などを読んだだけの印象なので、単著ではどうだろうか。

 国内政治、外交、社会問題等に私達が何気なく使っている言葉を、辞典、事典的な解釈ではなく、現実現場主義でずばりと言い切っている著といっていいだろう。
 たとえば、「国会議員」の仕事とは何か?という問いに対しては、次のような文言が引用される。

 一年生議員は二年生議員になること。
 二年生議員は三年生議員になること。


 旧田中派で言われていたこの言葉を皮肉めいて紹介したわけでない。
 これにはこれなりの真実があり、意義づけ(地元を回り有権者の声に耳を傾ける)もできるというのである。
 その真実に読み手がどれだけ近づけるか共感できるか、または反発するか、そういった揺れもあったりして、なかなか興味深かった。

 政治、外交、社会…いずれも多面体で成り立っていることはわかる。私たちが見ている(見せられている、といった方がいいだろうか)のはその一面に過ぎない。
 だからその現実に慣れっこにならない。その程度の決心しかできないが、その程度がまた大事かと思う。

 
 実は、一番考えさせられたのは前書きだ。
 「私たちの情報にはフィルターがかかっているのです」と題された「はじめに」に書かれてあることは、ある程度予想されていたこととはいえ、驚いた。

 フィルターのかかる元凶として「記者クラブ」の存在があり、そのまとまり方はどこまでも「日本社会」だなあと感じられる。それゆえ、取り除くための困難は計り知れない。著者はずっと闘っている一人なのだろう。

 その前提を知ると「メディアリテラシー」などをいくら学習しても、どれほどの効果があるのかとそんな疑問も湧いてくる。
 こういう現状を知り、どんなふうに実際の「行動」を変えていかなければいけないか、考えれば考えるほど深刻になってくるような問題だ。
 それを打破する一つの手がかりは新しいメディアの活用だとは思うが、その選択をためらっている自分もまた歯がゆい。


 それにしても、40字でたいていのことを言いきれるものだなあと感心してしまう。
 しかしまた、その表現にたどり着くには、水面下の見えない部分がいかに広く深くあるかが決定的だということを、この人にも教えられた気がする。