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鈍感ではいけない,慌ててはいけない

2013年07月11日 | 読書
 『みんなで考えよう 世界を見る目が変わる50の事実』(ジェシカ・ウィリアムズ  草思社)

 著者はイギリスのジャーナリスト。各種のデータをもとに世界の現状を若者向けに紹介しているものだ。
 扉の裏には「明るい話題から深刻な話題まで」と書いているが、編集者?は50項目のどれを明るいと形容しているのか、わからなかった。

 1 日本女性の平均寿命は85歳。ボツワナ人の平均寿命は34歳

 から始まる内容は、

 50 貧困家庭の子どもは、豊かな家庭の子どもにくらべて、3倍も精神病にかかりやすい

 で終わる。
 これだけでもある程度の予想がつくだろうが、地球規模における格差の問題、資本の偏り、問題の大きい法律、風習などが取り上げられている。

 事実の多くは、若者でなくとも日本人の大半は知らないだろうし、ふだん意識もしないことだろう。
 正直読んでいて、けして明るく気持ちよくなったりする内容ではなかった。しかしそういう多くの現実に囲まれて、自分の暮らしがあることを時々考えるのは無意味ではない。


 最近読んだ雑誌の書評で、かの内田樹氏が、不完全な社会に暮らしてきた人類が長く努力してきた末にその「歴史的経験」が私達に教えてくれたこととして、二つのことを挙げている。
 一つは、こうだ。

 人間は制度改革において長期的には「わりとましな」方向に向かっているということ。

 これを正しい判断とみるか、能天気とみるかは意見が分かれるだろう。
 富と貧困、平穏と紛争…例を挙げなくとも明確にわかる世界の現状は「わりとましな」と言ってもいいか、迷うところだが、少なくとも『みんなで考えよう~~』といった類の本が出版されるという一点をとってみれば、制度確立の動きは常に進んでいるといっていい。

 しかし、その制度が進むなかで問題が拡大している面があることは認めざるをえまい。

 35 毎年、10の言語が消滅している

 世界中の言語が約6000あるといい、その半数が絶滅寸前だという。
 この事実が物語っていることを、どう受け止めるか。
 進歩発展を遂げるということは、片方に必ずこうした事実を抱えるということを認め、それとどう折り合うのか。

 内田氏が挙げた二つ目は、こうだ。

 短期的には取り返しのつかないほどひどい間違いを何度も犯したということ。

 歴史を見る観点が違えば、具体的に何を指すか差があるだろうが、戦争や開発に伴う環境破壊などは洩れることはないだろう。

 そうした視点を今理知的に、冷静に提示できる人が少なからずいるという事実を、明るくとらえたい。
 「世界の見る目を変える」のは、共感をもってそういう方々とつながろうとする姿勢のなかに生まれてくるものだと思う。

 今、その姿勢は「慌てないこと」だと内田氏は言う。

 慌てている世の中では、案外難しいことでもある。
 この地方の小さな町でも街頭で訴えかける人たちが目立つこの時期。
 鈍感ではいけないが、慌てていない人を見きわめよう。