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伊集院テイストのミステリ

2014年06月02日 | 読書
 「2014読了」57冊目 ★★★

 『星月夜』(伊集院静  文春文庫)


 作者初めての推理小説だという。
 そういえば、今まで読んだ数多くの小説には、謎解きのような犯人探しはなかったと思う。

 登場人物の出自や経歴を、時間を遡って構成したり、視点人物を変えたりするのは、よくある手法である。
 ここ数年読んでいる他のお気に入りの作家たちの作品を思い起こさせる要素もある。

 しかし、やはり伊集院静は伊集院静である。
 そこに「流儀」ということを持ち出して語るには少し重いので、私は「伊集院テイスト」と名付けよう。


 思いつくまま挙げてみる。

 まずは、人物の設定に在日という要素が入る。多くは朝鮮であるが、今回は台湾が取り上げられた。

 次に、美術との関わりが出てくる。警察の鑑識員が美術館で見つけるある手がかりや重要な鍵となる銅鐸の存在も含まれるかもしれない。

 そして、何より主たる人物の性格に男らしさ、女らしさが強調される。

 「らしさ」というのは曖昧か。
 言い換えるなら「男臭さ」「女臭さ」かもしれない。
 人間の性格表現は、どんな作家であっても意識するに違いないが、この作家の場合、より男女の違いが際立つような気がする。

 それはある意味で「美」の表現である。
 男と女では美が違うのである、という強い意識である。
 だから、作品に老人が登場する率が高いのかもしれないとふと感じた。
 
 きっと、作者の思う美の極みは、そこに集約されるのではないか。


 ミステリファンとは言えない自分だが、ドラマファンとしてこの作品を見た場合、ちょっと物足りないのは、エピローグだ。
 取り上げられた岩手の老人との遣り取りは確かに心打つが、もっと多面的にそれぞれの人物を追ってもよかった気がする。

 それだけスピンオフ的な物語も出てきそうな結末であり、ドラマ化などの計画がないかと今から楽しみでもある。
 その時は古沢良太あたりで脚本を。