すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

根を伸ばさず目印を求めるから

2014年10月30日 | 読書
 「2014読了」114冊目 ★★★
 
 『トラウマの国 ニッポン』(橋秀実  新潮文庫)

 担任した子と大人になって会ったときに、「先生に受け持たれたことがトラウマになった」と衝撃の一言を言われたことがあった。真相はともかく、その時「えっ、トラウマって生き死にの問題じゃなかったのか…、そんなっ」と、なんだか「苦手意識」と同義に使われているような感覚を持った。「心的外傷」と訳されているが、かすり傷でも適用できることなのか。


 個人的なことはさておき、この文庫には「トラウマへの道~本当の『自分』」を初めとして12のテーマが並べられていた。「教育」「話し方」「英語」「セックス」「地域通貨」「日本共産党」…10年ほど前のことなので、変貌している面もあろうが、実に鋭く楽しく描かれている。通常のメディアにはない情報があり、興味深く感じた。テーマはいわば病室めぐりだ。


 著者は、書名を「傷ついた日本という意味ではありません」と書く。しかし、傷ついた日本人は圧倒的に多い。その傷は誰がつけたかと言えば、ほとんどの場合、自分自身によって、というように解釈される。そこに誘導される、追い込まれる、そんなシステムをこの国は持っているのではないか。一人一人が根を伸ばそうとせずに、「目印」を求めている風景だ。


 特に「田舎暮らし」の章は面白い。かの「人生の楽園」のような生活が本当にあると信じている人はどの程度いるだろうか。当時は、行政や企業などが「希望」を持って進めたむきもある。いずれにしても、そこで真に「幸せ」を得られる人は、場所などあまり関係ないように思う。著者が最後に書いたこの一節は実に鋭いし、この国の実相をえぐり出している。

 田舎はのんびりするために用意された場所ではない。そもそも人間は自然や因習から解放され、のんびりするために都会をつくったのだから。