すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

偏愛と感動と実行と

2015年01月02日 | 読書
 【2015読了】2冊目 ★★
 『櫻の樹の下には瓦礫が埋まっている』(村上龍 幻冬舎文庫)

 久々の村上龍エッセイ。昨日読んだ伊集院エッセイと同じように,震災を挟んだ時期の執筆である。書く内容や思想は違っていても,こういうレベルの人は未曽有と言われる出来事があってもぶれないなあと,改めて憧れる。著者の小説はともかく,発言に対しては結構興味があり,それはまた危険な香りのするものだ。この著では例えば「テロという選択肢」。


 もちろん,テロを勧めているわけではないと弁明しているが,次のような問いにはどきっとする。
 ◇テロはどうだろうか。現状に強い不満を持つ若年層は,どうしてテロに走らないのだろうか。

 そして,テロという「抗議や提言」がなされないわけを,こういうふうに分析してみせた。それは方法の是非はともかく,納得できる結論である。
 ◇変化の必要性が叫ばれ続けている割りには,誰も変化を望んでいない。それが現在の閉塞感の源ではないかと思う。


 この著で話題にされている,婚活,周辺外交,震災原発事故,食汚染など,いずれもデータが示すとおりに解釈すれば,悲観的な将来かもしれない。健康,金,そして歴史と現状分析が揃っていない者には,より厳しい時代が待っていることだろう。しかしある程度の予測はしながらも,楽観視したいと,この著からヒントを探している自分にも気づいている。

 例えば,著者がテレビ番組の収録で,貧困をめぐる問題に対する提言について,こう呼びかけたことだ。
 ◇「法律や予算編成を変えなければいけないものと,やろうと思えば明日からでも実行できるものと分けて提言してもらう」

 そして,キーワードとして挙げられている次の言葉。
 ◇「差別」と「偏愛」
 ◇「満足」より「感動」


 きっと,自分自身の手による物語づくりに,より意識的になることがその鍵になっていく。