すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

たましいの場所で歌う声

2015年01月12日 | 読書
 【2015読了】7冊目 ★★
 『たましいの場所』(早川義夫 ちくま文庫)

 早川義夫のアルバムを1枚だけ持っている。タイトルは恥ずかしながら「恥ずかしい僕の人生」。時々,無性に聴きたくなるときがある。場面は限定される。一人で車を運転している時が多いが,バックグラウンドミュージックとは言えない。聴いていてホコッとしたり,ジーンときたりする類いのものではない。むしろ,暗く重く沈んでいく。その心地よさもある。


 この本も同様。遠目には,自分のダメ加減についてこれでもかと繰り返しているに過ぎないかもしれない。しかし著者自身が,こう書くように人間の底とはそんなものではない。「そこまで露出する必要はないじゃないかと思うかも知れないが,まだまだ,僕は本当のことは,ちっとも言っていない」。この本が必要でない人は多いだろうが,渇望する人は確かにいる。


 多くのページの端を折った。

 ◇あなたが一流で,私が三流なのではない。あなたの中に一流と三流があり,私の中に一流と三流があるのだ。

 ◇思想も芸術も猥褻も,それらは,すべて,本の中にあるのではなく,人の心の中や生活の中にあるだけだ。

 ◇ビートルズを知るためにビートルズを聴くのではない。自分を知るためにビートルズを聴くのだ。聴こえてくる音楽から自分を映し出すことが音楽なのだ。

 ◇神様は,自分のことを「私は神様です」とは,たぶんおっしゃらない。

 ◇音楽を手段としてではなく,音楽を目的としている人だけが,悲しみを表現できる。



 まだあるが,改めて引用して写すと,言いたいことはシンプルだなと感じる。最後には「本屋の店主」を長く続けた著者の,気にいった本の紹介コーナーのような章が置かれている。いくらか似たような本を読んでいることが嬉しいような,不思議なような…。そしてこの章の題名こそが,このような本の読者,つまり自分らの正体であることを見事に指摘される。

 ◇僕は僕を知りたくて本を読む