すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

その志は変わらなかった

2015年08月01日 | 読書
 【2015読了】67冊目 ★★★
 S12『「指示」の明確化で授業はよくなる』(岩下修  明治図書)


 岩下修氏の初めての著書である。処女作には、著者の全ての要素が詰まっているというような話を聞いたことがある。発刊から三十年が過ぎ、岩下氏の実践も膨大となり、その全体像をとらえることなど到底できないままに言うが、ある意味当たっているかもしれない。発問・指示研究はもちろんだが、指導案へのアプローチ、そして自学…みんな芽が出ている。


 そもそも岩下実践には、名言「AさせたいならBと言え」を持ち出すまでもなく、子どもたちに「知的」な活動を仕向けていくことが、根本の要素としてある。教育技術の法則化運動の初期における、「指示の工夫」という点においては、本当に大きな刺激をうけたし、今でもその原理原則は変わらないと思う。その考え方の基盤がダイレクトに書かれている本だ。


 少し思い出話。指示を学んでいた頃、他校の体育館に行き、ある会の催す時(音楽祭だった気がする)学年ごとに整列させる場面があった。

 3年生を受け持っていた初任者
 「並びなさい。早く並べ」(ばらばらで、なかなか行動がとれない)
 本で学んでいた4年生担任、3年目の教員
 「○秒以内で、整列しなさい」(さすがに、動きがはやく並べた)
 それを見ていた5年担任の私。7年目。
 「じゃあ、5年生は何秒で整列できるだろうか。はいっ」(もちろん、もっと早かった)

 端的な例であるが、指示とはいつもこのようなものであったと思いだせる。「ゴミを10個拾いなさい」に込められたことは、「数」そのものでなく、子どもを動かす、それも「知的」な活動に高めるためのステップであるという自覚なのだと振り返られる。


 自分を振り返ればおそらく15年ほど前までは、確信を持って(そこまでしか自分は出来ないと限定して)「伝えられるのは技術。全てを技術に落とし込みたい」といった言い方をしていた。それにつながる表現を、この著書のなかにも複数見出すことができる。そしてその志は「人に役立つ」というきわめてシンプルな願いで、今も岩下氏はそれを持ち続けていた。