すぷりんぐぶろぐ

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貴方の鍵は何処と問う

2015年08月12日 | 読書
 【2015読了】76冊目 ★★
 『鍵のない夢を見る』(辻村深月 文春文庫)


 旅のお供の文庫本。初めて読む作家である。帯にあった「第14回直木賞受賞作」に釣られて手にとった。5編いずれも女性が主人公の作品が収められている。ううむ、確かに文章は上手だと思うのだが、書き込まれている女性心理に少しくどさを感じ、それから理解しきれないもどかしさも感じ…ううむであった。


 最初の「仁志野町の泥棒」。久しぶりに見かけた小学校時代の同級生について語られる。盗癖のある母親と暮らす同級生との出来事は、うまく描かれていると思う。高校生になってからの再会の成り行きは、作為めいているのか自然なのかわからないままだが、不都合な記憶が仕舞いこまれる人間の悲しさだけは感じた。


 その後の「~放火」や「~殺人」を扱う作品は、主人公が直接罪を犯す形ではないが、そこに深く関わる女性の心理が繰り返し深層に入っていく。その過程はドラマなどでありがちではあるが、とことん嵌ってしまうパターンが見えて、おいおいとツッコミたくなり、最終作の「~誘拐」は冒頭から結末が予想できた。


 「~誘拐」は案の定思った通り展開した。5編の共通性は、巻末の林真理子との対談にあるように「閉塞感」のようだ。主人公の置かれた立場が決まっていて、そこに閉塞感があり、事件が絡んでくると、その時の女性の心理はこう動くという教科書みたいなものだろうか。もちろん直木賞受賞作だから文章はうまい。


 題名『鍵のない夢を見る』は作品名ではないが秀逸な言葉だ。「閉塞感」をテーマと考えた時、実に象徴的である。自分が持っている鍵を失くした夢を見た、夢につながる鍵を自分が持ち合わせていない、夢自体に鍵となるものが全く無い…鍵という比喩によって、自らの位置が確かめられる。改めて考えると凄い題名だ。