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生きる現場力とでも

2017年12月02日 | 読書

 (UGO morning sun 2017.11.28③)

 「個食」「孤食」という語は、ほとんどの辞書に入っている。しかし今、それさえもままならない状況が出始めている。それは、時代の趨勢ということで済ませてよいものか。内田教授が10年ほど前に語ったことは、その意味でも予見されていた。

 「個食」というような特権的な食物摂取が可能であった社会はこれまで存在したことがない。そして、そのような特権がいつまで継続するのか私たちにはわからない。


2017読了119
 『ひとりでは生きられないのも芸のうち』(内田 樹  文春文庫)


 この文庫本はまだ読んでいなかったなあと思い手にとった。盛んに著者のブログを訪問していた頃の編集版なので、目にしている文章が多いかもしれない。しかし、時を経て(10年前後かな)触れてみても、ほとんど古さを感じないし、自分にとっての羅針盤の一つでもあったことを改めて確認できた。まず題名がいい。


 あとがきによると、この本はベストセラーになった上野千鶴子著『おひとりさまの老後』に対する「アンサー・ソング」の意味を込めたらしい。その著は読んだことはないが、その頃の社会情勢に沿っているのは間違いない。時代は確実にその頃よりリスクが高くなっていて、今「おひとりさま」はどうなっているか。


 安全で豊かな社会という幻想はもはや崩れつつある。今、「自立」は大事だが、それは「孤立」になっていないか見定めることは非常に重要である。「共生社会」といくら喧伝されても、実際に自分が社会のなかでどんな役割を持ち、どんな姿勢でコミットしているか語られる者でなければ、まさに絵に描いた餅なのである。


 この本は、いわばその「自立」の具体的な処方箋の在り処を教えてくれる気がする。そこを照らすライトの役割を果たすのが書名「ひとりでは生きられない」という逆説的な真実である。自分が発すると同時に、他者からその言葉が自分に向けられるような身の処し方こそ、生きる現場力とでも称したい「大人」の姿だ。