すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

ベストセラーの珍解釈

2018年12月05日 | 読書
 基本的に漫画は読了記録していないのだが、1位の『漫画版 君たちはどう生きるか』も入れたので、2位である本著もいいだろう、と。どちらも話題沸騰には沸騰するだけの訳がある。ただベストセラーのトップに漫画が並ぶことの意味は少し考えておきたいものだ。単純に言葉や論理の弱体化ということなのかな。



2018読了111
 『大家さんと僕』(矢部太郎  新潮社)


 このエッセイ漫画の魅力はどこにあるのか。「手塚治虫文化賞」を受賞したくらいだから、専門的な評価も高いのだろう。絵に関してはまったくわからないし、結構のこの手のヘタウマ画風の作家は多い気がするのだけれど…。言うなれば、「世界観」がわかりやすく反映されていて、読者の共感を呼ぶということだろうな。


 世界観とは少し大袈裟かもしれない。例えばPR誌に載っている(おそらく本の帯などにも)お薦めワードは「心に壁を作らない生き方」(朝井リョウ)「美しい愛の物語」(いしかわじゅん)「そっと見守ってくれる他人」(ヤマザキマリ)というところだが、自分なりに命名すれば「不器用さへの憧憬、共感」あたりだな。


 当然、著者矢部の不器用さなのだが、対象者となる大家さんと自分をよく観察しているから表現できる。それは意識的というより、世間的に消極的と見られがちな人の、一つの特徴として挙げられることかもしれない。表現手法として絵を選ぶのは、饒舌さではなく心象の風景化・動作化が得意と言ってもよくないか。


 もう一歩妄想じみたことが浮かぶ。「不器用」といえば、世間では「高倉健」である。そうか、「僕」が高倉健であってもこの物語は成り立つのではないか。そう書きつつギャップに驚くばかりだが、映画に登場する様々なキャラクターと重ねられることが可能だし、結構共通性が高いという新(珍か!)解釈が生まれた。