すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

忘れていいことから忘れる

2018年12月07日 | 読書
 「あれ、あれよ」「ああ、あれ」と、結局その名前が出てこなくとも会話が成立する。長年連れ添った夫婦しかも二人暮らしとなれば珍しいことではない。傍から微笑ましく見えたとしても、本当に大丈夫かという思いは確かにあるから、こんな本には手が伸びる。副題は「物忘れしない脳の作り方」。必要感ある一冊だ。


2018読了112
 『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本』(茂木健一郎・羽生善治 徳間書店)



 生命保険会社の主催するフォーラムの講演、対談をもとにして刊行された。茂木の著書は結構親しんでいるので、目新しい知見はないかなと思っていたのだが、ぴんと頭に入ってくる有益な言葉がありました、ありましたよ。人の噂話を好きな方は多い。それも「人の不幸の話」。若干、品がないように感じてきたが…。


 茂木はそれを「必ずしも人の不幸を喜ぶというのでは」ないと書く。「脳科学的には、人生なにが起こるかわからないので、いろいろな事例をあらかじめシュミュレーションしておきたい」のだそうだ。経験からの学びだ。確かに喜んでばかりの方々も居るが、不幸に予防線をはり、対処を考える大切さも内包している。



 羽生は生き方の名人でもある。特に対談で語る言葉には、ほおっと納得するばかりである。棋士の世界は「向上心を持っていないと、同じ場所にさえいられない」プロの世界。そこで長年トップを維持するための姿勢が明確だ。例えば「意識的、意図的に経験したことのない場所に身を置かないと、できなくなってる


 今回は名人言うところの「ものさし理論」には感銘した。「人が何か新しいことに挑戦する時に、絶対、過去にあった何かのものさしに比較しているはず」と語り、教育における「長いものさし」つまり目標等達成へ長い期間かかる体験の重要さを説く。将棋という果てしない長さを自ら体現しているだけに重みがある。