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桜と絵本と豆乳と

忖度なき爽快感

2018年12月27日 | 読書
 注文した文庫本が届いた。通常は風呂場読書が多いので400ページ以上だと4日ぐらいはかかるが、案の定面白くなってしまい、読み続け2日で読了。「5.5」で初めて登場した人物が好対照な存在として描かれていて、竜崎の信念を際立たせている。もちろん単独でも十分楽しめるが、続けて読む愛読者にはたまらない。


2018読了120
 『隠蔽捜査6 去就』(今野 敏  新潮文庫)



 新登場する若い女性警官の根岸とのやりとりが興味深い。熱心な根岸は少年少女のために献身的に夜回りをしている。その独自な判断に、竜崎は苦言を呈し、合理的な説明を求める。根岸の思いに触れ、組織の合理化とは何かと自ら問い直し、そこに一般市民の警察への求めを見出して「一つの合理性」と結論付けた。


 機構や組織の中に入る者にとって、考えねばならない本質的問題点がある。「企業の合理化というのは、経営者のための合理化だ。被雇用者にとってはとても合理的とは言えない措置だ」…自明のことだろう。しかしこれは様々な場に当てはめられる見識であり、組織にとって本末転倒にならないための警句とも言える。


 視点人物である竜崎の言葉は、いつも小気味いい。「ジャーナリズムよりセンセーショナリズム。それが今の日本のマスコミの現状だ」という的確な批判。「無意味と思える指示も、組織内では有効に作用することがある(略)メッセージのための、メッセージだ」という現状把握、コミュニケーションの意味付けになる。


 解説を作家の川上弘美が担当したことに驚いた。数年前から今野敏作品にハマりだしたという。そこに記された一文は、自分も含めて多くの読者が惹かれることと同一だ。「竜崎には、忖度というものが、ないのです」。この一種の美徳によって世の中がいかに汚されているか。読者が爽快感を覚えるのはそのためです。