すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

「のんびり」は「たいまつ」へと

2018年12月02日 | 読書
 県庁発行のフリーマガジン『のんびり』(2012~16)の編集長であった筆者が誌面からまとめた一冊だ。驚いたのは「秋田な理由」と題した前書き的内容で取り上げられた、著者と秋田との出逢い。マガジン作りに携わる以前、冬季に隣県へ取材した帰り道に立ち寄った羽後町の「ゆきとぴあ・花嫁道中」とあることだ。



2018読了110
『風と土の秋田』(藤本智士  リトルモア)


 「20年後の日本を生きる豊かさのヒント」と副題が添えられている。人口減少、少子高齢化の全国一を進む本県秋田に、それを冠すのはまさしく「のんびり」の精神であろう。データとしての「ビリ」にとらわれない、相対的な価値ではなく、そこに住み、暮らす者がシンから見い出す価値を、多彩な視点から掘り起こす。


 取り上げられているのは「マタギ」「寒天」「日本酒」「秋田弁」「ローカルメディア」である。ごく普通に暮らす県人には普通のことに思えても、実はそれらが成り立ってきたことには当然ながら歴史があり、支えてきた先人の熱意や工夫がある。そこに秋田の風と土の存在は不可欠で、だからこそ独自の価値を持つ。


 20年後を語るには経済的な面は不可欠だ。ここに登場する方々はいわゆる経済的な成功は求めていないが、その維持を意識することを忘れてはいない。つまり、自らの仕事の位置づけが明確である。そしてこのまま放っておけば縮小するのは人口や経済の規模ではなく、生きる誇りだと知っていることも共通している。


 浅舞酒造の森谷杜氏が笑いながら語った一言「儲からない仕事って、正義だよ」というある意味の強がりは、地方に根づいて生きる矜持である。むのたけじの「たいまつ」に触れ、著者が発する「その地域の人自らがたいまつたるかどうか」…それが問われている現状を再認識したい。手がかりは見つけられる本である。