和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

その人気というものは。

2015-07-04 | 道しるべ
昨日、古本届く。
佐々木邦全集15巻揃い(昭和50年・講談社)。

浪月堂書店(函館市駒場町)
5000円+送料1200円=6200円。

古本を買っても、私は
読むとは限らない(笑)。
まず、購入の記録として
備忘録を、このブログに。

さてっと、
この古本全集の元の持ち主は、
本の見返し・遊び紙に、
書き込みをしておられました。
各巻を函から取り出し、
それを、読んでみる。


昭和50年5月○日と購入日付と
住所が記されております。

「50.5.1」というように簡略な記載。
住所は「函館市戸倉町」。
姓は・・。これは伏せておきます。

後ろの見返しに、月報が糊付してある。
それで、全巻各本ごとに月報を読めます。
見返しに、前の持ち主の文字は、
ペン・鉛筆・ボールペンと
その時々に、身近なもので
書かれておりました。
その何気ない感想を読める、
という、稀有な巡り合わせ。

まずは、
全集第4巻の書き込みを引用。

「私の中学時代(昭6~11)、
二年生か三年生のころだったか、
田中比佐良装幀の花やいだ表紙の
佐々木邦全集が二、三冊あって、
その中の嫁取り婿取りや、奇物変物を、
喜んで読んだものだ。
父もいた、母もいた、
姉も、兄も、弟も、
取りっこして読みふけった。
二階家の、三間しかない借家で、
貧しい生活の一日一日だった。
米屋が米びつにいっぱい
米を置いて行った日は、
『あとしばらくは大丈夫だ』と、
ほっとするような日々だった。
佐々木邦の小説の人物は、
私たちの当時の生活から見ると、
はるかにハイクラスのものだったから、
それだけ、あこがれの気持も強かったし、
感銘も深かった。今これを手にして、
昔を思い、あこがれの心を思い起し、
悲しくまたうれしい。
 昭 50.5.1  ( 姓名 )

当時は奇物変物にひどく感心したものだ。
おそらく 漱石の坊ちゃん以上だ、
と思っていた。今から考えると、
おかしいが、・・・・・」

ちなみに、
この巻の月報はというと、
最初が、池波正太郎。
その文の、はじまりは、

「私ども年代の男たちが、佐々木邦氏の小説に
なじんだのは、なんといっても少年倶楽部に連載された
『苦心の学友』や『村の少年団』など、少年向きの
ユーモア小説からであった。
その人気というものは、漫画や劇画に夢中になっている
現代の少年たちからは、『想像もつかぬ・・・』
ほどのものだったといってよい。
中でも『苦心の学友』は、私どもを熱狂させた。
・・・・
私どものような東京の下町に育った少年たちにとって、
佐々木氏の小説が知らず知らず、笑いのうちに、
『大人の世界』へ、みちびいてくれることが、
たまらなく好奇心をさそったのである。・・・」

月報を、引用しはじめると、
どれも引用したくなって、
収拾がつかなくなりそうです。
ここは、池波さん一人で終了。


最後に、前の持ち主の
見返し書き込みを、もう一カ所紹介。
全集第7巻にありました。

「1975‐5‐28
  ・・・・・・・
 `98- 3-22 再読
中学時代、やはり佐々木邦全集の一巻で、
嫁取り婿取りを読み、上の学校に行くのに
なにも経済的な問題のなかった主人公の
家庭(p216)を、うらやましく思い憧れた
ものだった。今、○○たちの子供が三人
大学に行くことになり、感無量、半世代後に、
かの憧れが実現したことになる。

 2005‐1‐8
嫁取婿取を部分読み、中学時代に読んだ時の
憧れがもどって来て、なつかしく、
感慨深いものあり 」

こういう、長い書き込みは5~6冊探せました。
佐々木邦が、どのように読まれていたか、
読者の雰囲気に、じかに触れた気がします。
ということで、
味のある「見返し書込み」の、
余韻にひたりました。
コメント
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