和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

宵々山と宵山に

2020-02-09 | 京都
森浩一著「京都の歴史を足元からさぐる」(学生社)の
「北野・紫野・洛中の巻」でした。

「祇園祭のことを詳しく書くと
それだけで一冊の本になるので、
今回はごく簡単にする。・・」(p254)

はい。森浩一が、簡単にふれた祇園祭が、
どのようなものであったか?
うん。引用するに値すると思いました(笑)。

「1986年7月の中旬は、その当時のぼくとしては
珍しく京都で過せた。宵々山と宵山に連続して
山や鉾を見てまわった。

鯉山まで来ると浴衣姿の少女たち
の唱える声が聞こえてきた。

  鯉山のお守りは
  これよりでます
  常はでません
  こん明晩かぎり
  ご信心のおんかた様は
  受けてお帰りなされましょう
  ろうそく一本献じられましょう

これは1986年7月15日の夜にノートに書きとめた。
三行めの『常』は16日には『明日』と変えるという。

長年京都に住んでいて、この唱和を耳にしたときが、
もっとも京らしさを感じた瞬間だった。

この年以来、7月16日に京都にいるときは、
病気のさなかでも雑踏をかきわけて
鯉山には立寄ることが習慣となった。」
(p255~256)

はい。森浩一氏にとって、
「もっとも京らしさを感じた瞬間」が、
ここに、語られておりました。


ここに、『唱和を耳にしたとき』とありました。うん。
『祇園祭と音』というのは、魅力あるテーマですね。

つぎは、1931年京都生れの杉本秀太郎氏
の『祇園祭の音』を語る場面を引用します。
「生まれてからずっと祇園祭のまん中に住んでいる」
(p265「新編洛中生息」ちくま文庫)

遠回りします。まずは『山』の解説から

「この有名な祭には、『山』と呼ばれるものと、
『鉾』と呼ばれるものと、二種類の祭礼の道具がある。
道具というよりも、これはいずれも神の依りしろである。
山は現在22基、鉾は現在7基をかぞえる・・・・

山とは聞きなれない名かもしれないが、さまざまな人形、
といってもそれが人間をかたどっていることもあれば、
魚や虫であったり、祇園のお社とは無関係な別のお社の
ミニアチュールであったり、さまざまなのだが、とにかく
作り物を、そしてその作り物が神体そのものでもあるのだが、
そういう作り物を飾るための、高い木組みの台のうえには、
松が立てられ、その松の根もとは緋または緑の毛氈を
かけた竹編みのかごで掩われている。それがこんもりとした
山のかたちなのである。だから山という。」(p265~266)

お待ちどうさまでした(笑)
『祇園祭と音』というテーマには
重要で欠かせない文を以下引用。

それは、祭が近づく頃

「祇園囃子の練習開始である。
鉾が組立てられて町家(ちょういえ)
つまり町有の家のまえに立ち、
能舞台のあの橋がかりという構造と
類縁を示す架橋が、町家の二階から
鉾の上層部、囃し手たちが30人余りも乗る
櫓にまで渡されるのは7月10日のことだが、
祇園囃子の練習は、早い鉾町(ほこちょう)では、
もう6月の28日くらいに始まる。

梅雨明けまでに、
まだ幾日もある6月のかたわれどきに、
・・・二階囃子の音が聞こえてくる。
能楽で用いるのとおなじ太笛が、
幽婉とした曲想をかなでて・・・
鯨骨の撞木(しゅもく)を用いて
内がわの縁辺と底とを打叩く中くぼみの鉦が、
余韻のある高い音によって、しめった空気に
緊迫をあたえ、空間を等質に均らし・・・
太鼓が、下方から笛と鉦とを支えながら・・・」

うん。ここからです(笑)。

「祇園囃子といえばコンコンチキチン、
コンチキチンと、人びとは受け取ってしまうが、
二階囃子の練習期間に、祭の音楽の担い手たちが
くりかえし練習するのは、そういうふうに聞こえる
せわしない囃子ではなく・・・・
きわめてゆるやかで荘重な曲である、しかも、単に
一種類ではなく、そういう曲がいくつも、9つあるいは
10ばかり、7基の鉾、3基の曳き山それぞれに
またちがった曲が、それくらいずつ伝えられていて、
演奏には習熟を要する。だから、半月近くも、
毎晩そういうむつかしい曲を、ことさらに練習するのである。

7月17日の山鉾引きまわしの日、
すなわち外向きでは祇園祭の頂点とみえる行列の日、
それらの曲は出鉾囃子と称して、
鉾が四条通りをまっすぐ東へすすむ
数町のあいだにだけ奏される。

そして四条通りのまっすぐ東の
突き当りといえば、八坂神社である。

出鉾囃子は、つまり神楽囃子のように
カミに奉納する音楽であり、また
舞いをともなっている。舞い手は
鉾のうえに乗っている稚児(ちご)である。

『コンコンチキチン、コンチキチン』という
ふうに聞こえる囃子は戻り囃子といって
鉾が八坂神社のある東方へとすすまず、
町かどを折れてしまってから奏される。
すでに戻りにかかっているのだ。
戻り囃子もまた20曲、30曲と曲目があり、
・・・やはりくりかえし練習される。
戻り囃子の速さには・・・・・幅がある。
いずれも、こころせわしい曲だ。」
(~p269)

はい。引用はここまでにします(笑)。
うん。祇園囃子・神楽囃子。
じかに聴いたこともない祇園祭の
音が聴こえてくる『京の夢』。








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