和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

山本夏彦の幸福。

2020-02-11 | 京都
小池亮一著「魔法使い山本夏彦の知恵」
(東洋経済新報社)が古本で300円。
へ~。山本夏彦関連でこんな本がでていた
なんて知りませんでした。
目次をひらいていたら、
「山本夏彦最高の贈り物『職人衆昔ばなし』」
という箇所があります。

はい。はじまりを引用。

「『あの人たちは、世にも幸福な人たちなんだよ‥』
師匠は、世にもうらやましそうな声でいうのだった。
あれほど、憧憬に満ちた表情もみたことがなかった。
ここで師匠(山本夏彦)がいう『あの人たち』とは、
『職人衆昔ばなし』に登場する職人さんたちのことである。
  ・・・・・・・・・・・
この『職人衆昔ばなし』は、ライター斎藤隆介が
9年間にわたって心血をそそいで『室内』に連載した
聞き書きである。
大工、瓦屋、石屋、庭師、ペンキ屋、指物師、蒔絵師、
表具師、螺鈿師、家具木工、畳屋、椅子張師・・・・
などの名人上手が、ずらりと登場してくる。

・・・編集者は人形使いである。人形使いの腕で、
人形は生きも死にもする。
『職人衆昔ばなし』は、使命感をもった
夏彦人形使いの熱と努力で、百篇以上もの
貴重な聞き書きが残されたのである。
 ・・・・・・
人間の種々相三千世界見通しの山本夏彦が、
唯一の幸福と確信するのは、『手仕事のよろこび』
だけだ。生きてるかぎり、手と頭が動くかぎり、
それがなくなることはない。・・・」
(p139~141)

うん。久しぶりに、山本夏彦を読んだ気分(笑)。

そういえば、山本夏彦に
『最後のひと』(文芸春秋)があったなあ。


それはそれとして、
「関西育ち」の生島遼一著「春夏秋冬』(冬樹社)に
「言葉の論議」と題する5頁ほどのエッセイがありました。
はじまりは

「京の正月。11月末から裏の鴨川に毎朝鷗のむれが来る。
20~30羽、多いときは50羽ほど川面に下りている。
海の鷗より小形でゆりかもめというのだそうだ。
《カムチャッカなどで繁殖し、秋日本に渡来。和歌で名高い
隅田川の「都鳥」はこの鳥という》--広辞苑。」

こうはじまる文なのですが、最後の方で
この関西育ちの生島遼一氏が、東京で
「こんな経験があって忘れられない」と
指摘する場面が書かれておりました。


「若いとき、或る朝東京の下町辺りを歩いていたら、
隣りあう商家の小僧さん二人、掃除しながら
朝のあいさつを交わしていた。まだ十代と思われる
小僧さん同士が礼儀正しい、ととのった言葉を
ごく自然にやりとりしているのに、おどろき、感心した。
美しさを感じた。庶民層と呼ばれる人達の対話、
職人さんや小商人(こあきんど)に使われていた
何気ない簡素で、しかも格調もある表現は、
今日もう消失してしまっているのだろう。

ああいう言葉の機能のほうがむしろ合理的で、
近頃の学者や評論家が乱暴につかう衒学的で
威張りちらす日本語より、美しかったのでないか。

私の旧師は『おれが一番なりたかったのは大工さんだ』
というのが口癖だったが、技術よりそういう人たちの
言葉へのあこがれがあったのかもしれない。」
(~p56)

京都で、出会えそうな『最後のひと』たち。
そんな夢をえがく、『京の夢 大阪の夢』。


コメント
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