和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

職人かたぎ。

2020-02-12 | 先達たち
思い浮んで、長谷川如是閑の文をひらく(笑)。
本棚から出したのは、
井上靖・臼井吉見編「くらしの伝統」(主婦の友社)。
これ古本で300円。「非売品」とあります。
うん。古本で購入すると、非売品とか私家版とか
新刊書店でお目にかからない本を購入できるうれしさ。

目次は「手仕事」「衣・食・住」「四季おりおり」と
おおきく三章にわかれており。解説は樋口清之。

はじめの章「手仕事」の最後は、
 「職人衆昔ばなし  齋藤隆介」とあり、
その本からの引用になっておりました。
そのひとつ前に
 「職人かたぎ  長谷川如是閑」とあり、
25頁の文が引用掲載されておりました。
そこから、適宜引用してゆきます。
そのまえに

  幸田露伴 1867(慶応3)年7月生~1947(昭和22)年7月
  長谷川如是閑 1875(明治8)年11月~1969(昭和44)年11月
  落合太郎 1886年8月~1969年9月 東京生まれ。

という三人の年代を記してから、はじめます。
生島遼一著「春夏秋冬」(冬樹社)に

「私の旧師(落合太郎)は
『おれが一番なりたかったのは大工さんだ』
というのが口癖だった・・・」(p56)

とあり、気になりました。それでもって、
長谷川如是閑の文を読みたくなる(笑)。

「職人かたぎはその本場は江戸だったので、
職人の話というと、主人公はきまって江戸っ子だった。
職人かたぎの伝統は古いが、江戸時代になって、
その生粋(きっすい)の形が江戸ででき上ったのである。」
(p155)

さてっと、長谷川如是閑の『職人かたぎ』は
こうはじまります。

「私は職人でもなく、職人研究の専門家でもないが、
明治の初めに生まれて、日本の職人道が、その伝統の
姿をまだそのまま持ち続けていた明治時代に育ったので、

ことに自分の家が、先祖代々江戸の大工の棟梁だった
というようなことから、書物に出ている職人ではない
本物の職人の間に育った・・・・・

若いうちから、職人の話をするとじきに泣きだす、
といって笑われたものだが、これは職人社会の
実生活が、言葉や文章によってではなく、じかに
私の心にしみ込んでいるせいかもしれない。」
(p134)

これがはじまりです。
う~ん。外国との比較や、職人の貴重なエピソードが
ならぶのですが、残念。そこは省略して、
文の最後に、5頁ほどの「『職人かたぎ』補遺」
から引用します。そのはじまりは

「先月号に載った『職人かたぎ』に書き落とした話を
思い出しているところへ、谷中の五重塔焼失の報を聞いた。
浅草に住み朝夕親しんだ塔だけに、思い出は尽きぬものがある。」
(p153)

うん。江戸っ子と文学がこの補遺にありました。
長くなるけれど引用することに。

「明治文学の初期に職人の文学を書いたのは、
やはり江戸っ子の露伴だった。明治文学の始めは、
江戸時代の戯作本の流れをついだものだったが、
明治の十年代の半ばごろから、いわゆる明治文学が
起こった。その作者はみな江戸っ子だったが、
面白いことには、その明治文学開拓者の第一人者の
坪内逍遥は、江戸っ子ではなく名古屋人だった。
逍遥一人を除いて明治文学の開拓者の全部は江戸っ子だった。
逍遥も子供のころから戯作本に親しんで、18の歳に東京へ出て、
私がその塾に世話になった、30未満の年ごろの逍遥は、
りっぱな、東京言葉と言うよりはむしろ江戸っ子言葉を使っていた。
江戸っ子の私の父から子どものころ聞かされたようなその江戸っ子
言葉をなつかしがった。そのころ地方人には小説が書けなかったのは
人物の会話を東京言葉で書くことができなかったからだ。

その江戸っ子の小説家も、職人をテーマにしたのは露伴だけだった。」
(p156)

はい。補遺の最後の箇所を引用。

「職人とは縁の遠い環境に育った露伴だが、
それはおそらく下町育ちの獲物(賜物?)だったろう。
漱石は同年生まれの江戸っ子だが、山の手育ちなので、
職人の世界には全く無知だったが、しかし
漱石の仕事に打ち込んだ名人かたぎは、
やはり江戸っ子式のそれで、どこかに
職人かたぎに通じるものがあった。
博士号の辞退なぞも、生来の気むずかしや
ばかりのせいでもなかったらしい。
ことに私は朝日新聞の同僚だったので、
いろいろのことを頼んだが、
博士号辞退なぞという気むずかしさは全くなくて、
私はしばしばその社員としての忠実さに打たれたのだった。
そうしてそれが私の空想の職人かたぎに通じる
ものがあるように思われて、うれしかった。」
(p157)

はい。京都からはなれて、
「江戸っ子の職人かたぎ」
の話になりました。





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