集英社「わたしの古典⑨」は、「杉本苑子の枕草子」。
はじまりに、「わたしと『枕草子』」という2頁の文。
そこから、みじかい引用。
「・・・『枕草子』は、随筆という枠でくくらず、
一人の作家の手になる随想と小説を、一冊にまとめた大変
バラエティに富んだ作品ーーそう、とらえてよいのではなかろうか。
しかもその短編の主人公は、いつの場合も筆者である清少納言
自身だし、他の登場人物はみな実在した人々だから、さしずめ
これらの作品群は、実名小説、私小説の草分けともいえる。
一編一編に、いきいきと清少納言が息づき、活躍している点、
紫式部が『源氏物語』の陰に、彼女みずからの実像を巧みに
晦(くら)ましてしまった事実と、好対照をなしている。
たぶんに美化して描かれている清少納言の才能や性格、人となりを
『嫌味な自慢屋』ととるか『無邪気な楽天家』ととるかは、
読者の好きずきであろう。・・・」
はい。この文の最後は、こう締めくくられておりました。
「ともあれ、細かいことは二の次にして、
『枕草子』にアタックしてみよう。かならず一つ二つ、
読み手の感性に触れる言葉があるにちがいない。
ちなみに、『枕草子』の中で、私がもっとも好きな言葉は・・
『ただ、過ぎに過ぐるもの、
帆あげたる舟、人の齢(よはひ)。春、夏、秋、冬。』」