集英社「わたしの古典②」は、「清川妙の萬葉集」(1986年)。
はじまりの「わたしと『萬葉集』」から引用。
「『萬葉集』は、私の、娘時代からの大切な愛読書です。
日本最古の歌集であるこの古典と、私は、きわめて自然な
めぐりあいを持ちました。昭和13年の春、いまの奈良女子
大学の前身、奈良女子高等師範学校に入学した私は、
万葉のふるさとのただ中に身を置きました。春日(かすが)の
山を望み、佐保川(さほがわ)の瀬音を聴くこの学校で、
私は、『萬葉集』を深く愛しておられた木枝増一先生から、
教えを受けました。【「萬葉集」はすばらしい。一日一首ずつ
でもいいから読みつづけていきなさい】先生に傾倒していた私は、
そのことばに従い、放課後いつも学校の図書館に寄って、
一首一首『萬葉集』を読み辿っていったのでした。
もともと幼い頃から、韻律のあるもの大好きだった私は、
たちまち、『萬葉集』の魅力に捉えられていきました。
・・・・・・・
木枝先生は、私の卒業後しばらくして、世を去られました。
しかし、その『萬葉集』への情熱は、私の人生に残してくだ
さいました。30代の終わりから、私はものを書く仕事に携わり
ましたが、そのかたわら、『萬葉集』を同好のかたと読む
こともはじめ、その会もはや20年近くつづいています。
・・・・・・・・
私は、この『萬葉集』を書き下ろすというかぎりない喜びの中に、
草かげの花への愛憐も溶かしこみました。若い日に国文学を専攻
したとはいえ、その後専門の研究を続けたのでもない私は、この
本を書くために、諸先生がたの書かれたたくさんの本を読み、
猛勉強をいたしました。
・・・・・・・・
ともあれ、私の、『萬葉集』への心熱い思い入れが、
読者のみなさまにお伝えできれば、この上なく
うれしゅうございます。どうぞ、この本がたくさんの
かたに読まれ、愛していただけますように。」
うん。これだけで、私はもう満腹。
なので、これ以上引用はなしです。