集英社の「わたしの古典⑪」は
「もろさわようこの今昔物語集」(1986年)。
この本の最後、山口仲美さんが解説をしておりました。
そのはじまりを引用。
「『今昔物語集』は、ふしぎに作家の創作意欲を刺激する作品である。
かつて、芥川龍之介が原典・・所収の説話を素材にして・・・
短編小説を書いたことは、有名である。・・・・
芥川は、原典・・には見られない内面描写に重点をおき、
普遍的な人間性をシニカルに描き出した。
もろさわようこ氏の『今昔物語集』も、原典をもとに、
氏独自の解釈を施して書き下ろした短編小説集である。・・・」
「原典『今昔物語集』には、こうしようかああしようかと
思い迷う心理の記述は見られない。外から見える行動と会話で、
話が展開していく。つまり、一貫した外面描写で即物的に語る、
これが、『今昔物語集』の基本的な叙述態度である。・・・」
ここからは、山口仲美さんの本の紹介。
山口仲美著「日本語の歴史」(岩波新書・2006年)に
「『今昔物語集』ほど、魅力的な古典はそんなに多くありません。
漢文訓読に用いる硬い言葉や言い回しでストレートに物事を描写する。
それが、ごつごつした漢字カタカナ交じり文とマッチして、効果を
あげているのです。私は、『今昔物語集』の虜になってしまい、
『平安朝«元気印»列伝』(丸善ライブラリー)や
『すらすら読める今昔物語集』(講談社)を書いています・・・」
(p64)
ちなみに、『平安朝«元気印»列伝』は
副題が「『今昔物語』の女たち」となっており、
こちらは、1992年に出版されており、
『すらすら読める今昔物語集』が、2004年に出ております。
『すらすら読める‥』のはじめにで、山口仲美さんは
こう指摘されておりました。
「現代の私たちに生きる力を与えてくれる話を選んで
この本にとりあげることにした。現代人は、わたしを含め、
ストレスを受けすぎて、人間の持つ本来の力強さ、生命力が
萎えているように思える。多くの人は、しょんぼりと肩を
落として道を歩いている。
そんな時に、生きるか死ぬかの瀬戸際で知恵と勇気を振り絞って
生きのびていく話、苦しみあがいているうちに光明を見出す話、
日常のしくじりを好転させる話、降りかかった災難を弁舌の力や
夫婦の力で払いのけていく話、などを読むと、不思議に癒され、
生きる力がわいてくる。・・・」
ちなみに、
『すらすら読める今昔物語集』は
ふりがな付原文のページ下に山口さんの訳。
各話のあとに、解説がつきます。
『平安朝«元気印»列伝』は新書で絵巻や原文の写真入りで、
山口さんが内容を語ってゆく読みやすさ。
はじめての人に、私のおすすめは
岩波少年文庫にはいっている
杉浦明平著「今昔ものがたり」(1995年)が
簡単・簡素で、スラスラ読めちゃうすぐれもの(笑)。